第三十一話:リプカ・エルゴール・1-1

 他の王子達も銘々気付き、皆ゆっくりと、クインの傍へ近寄った。


「お、あったか。さすが参謀様、目的の書物を探し当てるスキルはそこそこ自信があったが、本職には敵わんか」

「――なんだお前らわらわらと! 近づくな、これは私が見つけたんだっ!」


 クインは閲読していた大判の書を胸に抱くようにして隠し、寄ってきた三人方をじとりと睨みつけた。


 焼け色の年季が見える、白の表紙の大判書、その背表紙を盗み見ると、クララは「やはり」という思いを抱いた。



『誕生石のための起草日記』。



 背表紙にはそう印字されている。


(やはり、表題が擬装され、隠されていた――)


「あっち行けオイ! それか帰れ!」

「もう表題見ちまったんだから、見ようと思ったらまた後で来りゃいい話しだろうが。渋っても面倒しかないだろ」

「私が持って帰ればそれでいい話だ。やらん、どっかいけ」

「面倒くせえな……」


 舌打ちしながらも争いに持ち込む様子は見せないティアドラと、口の端を伸ばした深海魚のような表情を浮かべるクインの間に――クララが割って入った。


「――あの、どうかそれを、見せてくれませんか……?」


 切実な声でクインと向かい合い――尊厳と共に腰を折る誠実な姿勢で、頭を下げた。


「お願い致します」

「…………」


 クインは僅かな間、その確かなを感じ取れる誠意の礼を無表情で見つめてから――。


 再び、深海魚のような表情を浮かべた。


「いやだぁ~」


 だみ声の否定だった。


「……ガキかコイツ」

「そ、そんな……」


 クララは必死の表情で顔を上げると、クインに歩み寄り――白の大判書に手を伸ばし、腕から先以外ではためらいがちな様子を見せながらもしっかりと、それを掴み取った。


「無慈悲な……」

「――アっ! コイツ、ナニやってんだっ! おい、コラ放せッ!」

「お、お願いします……!」

「乞いながら力を込めるな! おい、引っ張るな!」

「お二方、少し落ち着いて……」

「落ち着いていられるかこれがァ! おいこのアバズレェ! 放せっつってんのにっ!」

「ア、アバ……!? ひ、酷いです……!」


 ショックを露わにしながら、本を抑える手が両手になった。


「オイイ破れる! 本が破れるだろうがッ! 古書だぞこれ!」

 ――乱痴気騒ぎにため息をつき、ティアドラが割って入り、クインとクララの手から書をひょいと取り上げた。

「あ゛っ!」


 眉を鋭角にするクインに構わず、ティアドラはそれをテーブルの上に投げ捨てた。


「……クイン様、どうかその辺で……」

「――クソ共ッ!!」


 瞳を瞑り頬にひとしずくの汗を浮かべる、セラの窘めに、クインは暴言を返した。


 クララは投げ捨てられた書を開き、内容に目を走らせた。

 それは確かに、エルゴールの家系の細かまでを綴った歴史書であった――。


 

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