退屈な議論会・1-2
「後半のそれは、考えづらい推測だ。なぜなら、フランシス殿も今回の縁談騒動は利用したいはずだからだ。フランシス殿個人で私と縁を作れば、もしかしたらアルファミーナ連合が独占している科学技術の断片が手に入るやもしれないと、そのような魂胆を抱いていないとは考えづらい」
「ふん」
これになぜか、ティアドラが不機嫌そうな表情を浮かべた。
アズは「んぐぐ」と眉を寄せ顔に力を込めながら、人差し指をこめかみに当てて首を傾けた。
「ああー、そかそか。んー……、他にも推察はいくつか考えられるけど……やっぱり私は、牽制って意味が、一番真実味があると思うなぁ」
「俺は真っ先に、協力者の存在を疑ったけどな」
ティアドラが、椅子を二本脚でギコギコ揺らしながら、話に割って入った。
アズがそれに首を傾げる。
「協力者?」
「だからよ、ディストウォール領域に協力する意思のある輩がこの中にいるんじゃねえかってことだよ。そいつに対して圧力をかけてたんじゃねえかって、最初は思ったりした」
ティアドラの疑いに、リプカは目を見開いた。
――が、それを聞いたアズは、難しい顔付きでまた首を傾げた。
「ん、うーん……。それは……」
「まあそうだよな。言い出しといてアレだけど、俺もすぐにそれは『ねえな』って思ったよ。オルエヴィア連合はもう実質瓦解してて、残っているのは瓦礫くらいだしな。瓦解して瓦礫だよ、協力する価値がねえ。ディストウォール領域との個人的な友好って線も、そんなものがあればフランシス殿が必ず調べ上げているだろうしな。協力者の線は薄い」
「結局何が言いたいんだ」
ビビの無遠慮な指摘に、ティアドラは顔を歪めた。
「フランシス殿がこの晩餐会で画策した企みは、炙り出しとかそういう、縁談騒ぎとは無関係なところにはないんじゃないか、ってことだ。考えられるとしたら協力者を探る線だが、それが無いとなると、この内々で完結する企みってのは、他に考えられなかった」
「内々で完結する企み……どうしてそれに限定する? アルファミーナ、パレミアヴァルカ、アリアメル、イグニュス――それぞれの国へ、間接的に働きかける圧力を向けた、と考えるほうが、推測の幅は広がるように思うが」
「戦争屋の勘だ。利権やなんやの事情を上っ面のそれらしい言葉で必死に覆い隠そうとする奴らを見てきた俺の目には、フランシス殿は縁談の盤外へ火を飛ばそうとしていたようには見えなかったぜ」
「私は勘というものを信じない」
「知らねえよ!」
鋭い犬歯を剥き、ティアドラは乱暴な声を上げた。
「知るかそんなこと。お前喧嘩売ってんの……? ――レヴァロドルマに戦犯擦り付けられたディストウォールだとか色々言ってたが、あの政治的要素が主題の公開裁判こそ切り出しの手段であり、そっちはどうでも良かったんじゃねえかと思っただけだよ、俺は」
「つまり?」
「あれは俺たちの人柄みたいなもんを見極める、試験だったんじゃねえかってことだよ」
ビビのあまりに慮りのない合いの手に青筋を浮き立たせながら、ティアドラはそう締めくくった。
試験。人となりを見るための機会?
それもまたあり得そうな話に思えて、リプカは混乱した。
「――あんたはどう思うんだよ? アリアメル連合の王子様よ?」
ティアドラが、しゃくった顎でセラを示した。
じっと彼女らの話に耳を傾けていたセラは、カチャリと静かに食器を皿に置くと、どことない宙を見つめながら、静かな声を発した。
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