12 agent
protagonist:
僕たち三人はJR品川駅で下車し、品川駅から出るための長い回廊をサラリーマンたちとともに歩いていく。真依先輩が訊ねてくる。
真依先輩「ねえ、あのときキューバリブレ飲み干してたけど。お酒、隠れて飲んでたの」
主人公「まさか。一滴も飲んだことないさ」
真依先輩「じゃあ昨日は人生初めてのお酒?」
主人公「いいや、ただのコーラだよ。事前に頼んでいたんだ。ストローが刺さってなかったら、みんなお酒だと思い込む」
真依先輩「そうまでして自分が年上だって演出したの?」
主人公「栗原さんからの入れ知恵だよ。高校生だとバレたら、同業のスパイだとすぐ悟られる。でも、年齢が二十台だと思われたら、どこの所属かはまったくわからなくなる」
衛理はため息をつく。
衛理「あの素直なぼっちゃまが……」
主人公「新人ヅラは相手には意味がないからね。演じるのはときに必要さ」
衛理「未冷の前ではあんなにオドオドしてるくせに……」
そんな小言を衛理に言われながら、品川駅の回廊を抜けて、僕たちはビルの中へと入っていく。
受付から通されたその広くて見晴らしもよく、現代的な社長室には、マスクをつけた陽子がいた。
陽子「時間通り。こういう仕事をしてる割には」
僕は答える。
主人公「取引先は倫理観も時間もだらしないと思ったからね。そうじゃないって伝えたかったんだ」
陽子「でもあんたたちが他の取引先より信用できるわけじゃない」
そして陽子は足を組んだのか体を背もたれへとよりかかりながら訊ねてくる。
陽子「それで、シンジケートっていうのは?」
僕は座ることなく答える。
主人公「君の取引先さ。連中は大量の暗号通貨を買い込んでいる。けれど君のこの会社では、どうも最近は買っていないようだね」
陽子は鼻で笑う。
陽子「今は高すぎる」
主人公「だから思ったんだ。君は取引先をはめるつもりなのかなって」
陽子はためいきをつく。
陽子「これからリモートの会議がある。カメラの映らないところで黙って聞けばわかる。そこにかけて」
僕ら三人はソファに座る。そして陽子はそこにあったプロジェクターをリモコンで起動し、パソコンの画面を共有する。そして、その画面には陽子の取引先のトップがマスクをつけず揃っていた。ミュートの環境下で、衛理が指差す。
衛理「ねえ、あいつ。暴力団の組長じゃん」
僕が真依先輩に訊ねる。
主人公「もしかしてテロの実行犯なのか。銀行が資金洗浄に関わっている、というのは知ってるんだけど」
真依先輩は答える。
真依先輩「事実上のトップと言っていい。彼らは覚醒剤で富を築いていたはず、なんで……」
カメラの外に立っていた陽子が答える。
陽子「例の病気で渡航量が著しく減って、奴らのシノギは半壊してる。だから連中、うちの取引先の誰かに言いよってここに参画するようになった」
そのとき、会議が始まる。
司会「では起案者より説明を」
暴力団のトップと指さされた男が話し始める。
組長「世界の列車はいまだに毒物への対応ができない。そこで今回は地下鉄テロ事件をベースとします」
取引先の一人が訊ねる。
企業幹部「毒物は?まさか君らがサリン工場を持ってるわけじゃないだろ?」
暴力団組長は答える。
組長「無害な白煙とビープ音を放出するこの装置を複数の電車に用意します。現状の鉄道会社は利用者による通報に頼るしかなく、装置が無害かチェックするまでに多大な時間を必要とします」
企業幹部「そのタイムラグのとき、大量の取引が誘発されると」
組長「少なくともこれまでの経験則からは日本への不信感で相場が動かされ日本円からドル替え、その流れと相まって円から暗号通貨への切り替えが発生します。暗号通貨を大量に扱っている皆様であれば、すべて回収できるはず。今までのように」
さらに別の人間が訊ねた。
企業幹部「それでどう実行する」
組長は答える。
組長「例のごとく、我々が雇った高校生を利用します。全員、我々とは関係のない存在ですから、公安は気づけない」
僕らはそれを沈黙して見つめている。
会議が終了した後、僕は陽子へ言った。
主人公「君のクライアントは金を借りすぎた大企業、攻撃的と評判の銀行、おまけに実行犯は指定暴力団か。全員がつるんで偽計行為とはひどいもんだね」
陽子「それは同意する」
主人公「君はなぜこんなことを」
陽子はおもむろに答える。
陽子「これが私の使命だから」
主人公「使命……」
答えることなく彼女は僕へと訊ねてくる。
陽子「あんたのことを銀行で調べた。顔写真が出てこないけど」
主人公「こういう取引を専門にする
陽子「
主人公「なぜ?」
陽子「あのとき抱えていたキューバリブレ、実はただのコーラだったんじゃないのかって」
真依先輩と衛理が顔を見合わせている。僕は素直に言った。
主人公「バレちゃったか……」
満面の笑みを浮かべた陽子に、
主人公「僕は下戸でね。バーテンダーと口裏を合わせた。一万円札は強いね」
沈黙するセキュリティ会社の社長は告げる。
陽子「嘘をつく時、人は饒舌になる」
主人公「それが栗原さんから暗号通貨といっしょに覚えたことかな。
陽子はどこか遠くをみやる。
陽子「私は栗原に出会う前からすでにそれ以上の暗号通貨を使った
僕は素朴に訊ねる。
主人公「なぜ……」
陽子「
そして彼女は続けた。
陽子「暗号通貨は、不動産のような夢のタイムカプセルとなった。つまり、近い将来に他人から金をむしりとることのできる権利。それに群がる卑しい人間を、私は昔からよく知っていた。だからネット上の仮面から暗号通貨の店頭価格を適当に繕い、全財産を賭けさせ、売った。そして
僕は訊ねる。
主人公「なぜ今もその
陽子「卑しい人間は、バブル崩壊後のこの国にもなお
そして彼女は決定的な言葉を告げた。
陽子「私たちは、富に仕える」
呆然としたが、なんとか告げる。
主人公「キリスト教のアンチテーゼ?」
陽子はやがて言った。
陽子「情報は渡した。よい狩りを。公安の
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