6 same
protagonist:
会議室と肩を並べるほどの巨大な取締役室で、彼は高く座り心地のよさそうな椅子ではなく重く重厚な机によりかかる。
ナカモト「僕はナカモトサトシだよ」
僕は座らされたソファでため息をつく。
主人公「ビットコイン開発者の名前ですか。偽名を使うなら、もう少しマシなものがあったでしょう」
サトシ・ナカモトを自称した彼は笑う。
ナカモト「新川は気づかなかったけどね。つまり、僕は君の同類さ。
なるほど、それで多少の納得はできた。僕は訊ねる。
主人公「この取引所を仕切っているのはあなたですか」
彼は頷き、
ナカモト「暗号通貨とそれを縛る法の実態が理解できていなければ、この商売は成り立たない。けれど銀行の子だった彼は大事な取引所の顔さ。それら両方を担えるのは、
僕は答える。
主人公「セキュリティ会社の社長の?」
ナカモト「知っているのかな」
主人公「世間話程度ですが。世界中にセキュリティソフトを売り捌き、いくつもの企業のホワイトハットハッカーとしてコンサルをして富を築いている」
ナカモト「いいね。だが彼女が富を築き上げたのは金のむしりとりだ。暗号通貨への資産切替の提案と、その時に発生するインサイダー取引。彼女が健全な市場取引を阻害するが故に、僕ら諜報界隈での
主人公「インサイダー取引は警察や金融庁が目をつけるはず」
ナカモト「株券なんかの有価証券ならばね。暗号通貨はそのような規制の中になかった。改正された資金決済法と金商法で、有価証券の扱いとなる予定だが」
主人公「その締め上げのために、僕らは選ばれたってわけですね」
姿勢良くソファに腰がける真依先輩が進行するように、
真依先輩「犯罪組織がこの取引所を使えるようになったのは?」
ナカモト「いろいろと陽子が裏口から偽装を行ったようだ。銀行の中には、マフィアと取引してることが公になっても、情けをかけるしかないクズはいるわけだし」
真依先輩は訊ねる。
真依先輩「それでどうやってあの暗号通貨を手に入れ、犯罪組織へ流したんです?」
ナカモト「陽子がこの取引所経由で、犯罪組織へと送ったということだけだ」
真依先輩「セキュリティ会社があの暗号通貨を手にしていたと」
ナカモトは何かを思慮するようにうなり、
ナカモト「手にしていたというよりも、ある種の異次元ポケットかもしれないね」
僕は訊ねる。
主人公「彼らはどの暗号通貨の値段が釣り上がるのか知った上で何者からか入手し、取引していると?」
ナカモト「彼らはそのネットワークとメリットを持ち合わせる。それが異次元ポケット。取引先と同時に動くのなら、それは一種のカルテルといってもいいだろうな」
僕は首を傾げる。
主人公「
ナカモトは微笑む。
ナカモト「なかなかいい例えだ。行政や君たちに、彼らは追われているわけだし」
足を組んだ衛理は、穿つように訊ねる。
衛理「その真意を確かめるには?」
ナカモト「会社に入るのにうってつけの
衛理はためいきをつく。
衛理「ずいぶん準備がいいんですね」
ナカモト「もともと君たちがくる、と天の声を聴いてね」
衛理「それが
半信半疑で聞く衛理に、ナカモトは笑う。
ナカモト「信仰は大切なものさ。君たちも近いうちに理解することになるよ。学生諸君」
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