精神分析コラム
ジュン
第1話 無意識をわかることはできない
「無意識をわかることはできない」。なぜ、そんなことが言えるのでしょう。このことを、人はなぜ眠ることが欠かせないのか、そのことと関連づけて考えてみましょう。人に限らず、睡眠というものは、どの動物にもみられる共通の現象です。なぜ、動物は睡眠が必要なのでしょう。疲れた頭を休めるためでしょうか。それもあるでしょう。しかし、それだけではないのではないでしょうか。まず、人の睡眠の役割から話を始めたいと思います。人は、本能的欲求を社会規範という圧力に屈服させて生きています。ところで、社会規範というものは、社会生活のルールに人を順応させるためのものです。一般にこれは法、ないし法律を指しています。実定法もあれば慣習法もあります。そして、現代の法とは成文法、つまり、文言が書かれている法律といって、まず間違いないでしょう。法律は言葉によって書かれていますから、人が法に従うとは、端的に言えば、人が言葉に従うことを意味しています。つまり、社会規範に従うとは、言葉に従うことと同義です。一方で、人は歴史的に進化の過程で、言語を獲得するより以前の過去というものを受け継いでいます。言語活動だけで、種の存続は図れません。生殖行為なり、性欲を露にする行為なりといったものは、言語活動が低下した状況で現れやすくなります。これは、社会規範を成り立たせている言葉が、一時的に弱体化するために、言葉によって抑圧されていた本能的欲求と行動が表現しやすくなるためです。
さて、人はなぜ眠るのでしょう。眠っている間、夢を見るものですが、これは、社会規範に従っている人と、本能的欲求を再生させたい歴史的存在としての人の対決を表しています。つまり、人は、言葉獲得の文化的存在と言葉獲得以前の動物的存在を夢の中で対決させるのです。往々にして夢の内容が性的色彩を帯びるのは、睡眠の最中は言語活動の覚醒が本能的欲求の対抗によって弱まり、動物にとって最も根本的な性的欲動が前進するためです。
さて、冒頭の「無意識をわかることはできない」となぜ言えるかですが、もし、無意識をわかることができたら、社会規範と性的本能、つまり、言葉と本能的欲求の対決の場としての睡眠は必要なくなるでしょう。もし、そんなことになれば、その人は、眠らずに生きられるのではないでしょうか。私はそのような人に今のところ出会ったことがありません。精神分析のおもしろいところは、たとえ、精神分析学の創始者フロイトであっても、睡眠をとる限り、無意識の領域を完全に明らかにすることができないということがわかってしまうことです。
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