ひと夏の恋

環流 虹向

Prologue

ウソつきくまさん

俺がいつも見る夢の中のおとぎ話。


夢の中でしかもう会えなくなった家族たち。

今もみんな元気だったらいいな。


・・・ウソつきくまさん・・・


ある町にひときわ目立つ、カラフルな石で出来たおうちがありました。


そのおうちは町人が捨てたガラスのカケラを削って寄せ集めて出来たおうちでした。

おうちの中には長髪の男の子とそのお母さん、おじいさんが住んでいました。


ある日、男の子はおじいさんと町に物を売りに出かけて帰ってくると、おうちにはお母さんと大きなくまさんが仲良くお話していて、その日から優しい笑顔のくまさんも男の子の家族になりました。


しばらく一緒に暮らしているとそのくまさんはたくさんのお米とやさい、くだものを持ってきてくれて物を売らなくてもお腹いっぱいごはんを食べられるようになりました。


けれど毎日毎日お腹いっぱいくまさんが食べさせてくれるので、お母さんとおじいちゃんは歩くのさえめんどくさくなるほど太ってしまい、いつしかお部屋から出てこなくなってしまいました。


男の子が文字を読めるようになった頃の誕生日、くまさんは初めてお肉を食べさせてくれました。


「今日は君の誕生日だから。」


と言って、たくさん食べさせてくれました。


男の子はお肉に満足していましたが、お母さんとおじいちゃんにもお祝いしてほしくて、久しぶりに部屋のトビラをノックします。


[カンカンッ!]


石の扉はかたくて手がズキズキします。


「ママ、じぃじ。今日は何の日でしょう?」


男の子はトビラの向こうの2人に聞いてみます。


けれど、楽しげな音楽しか聞こえてきません。


「何がほしい?」


うしろを振り向くといつもの優しいくまさんの顔がありました。


「…ケーキ?」


「うん。一緒に食べよう。」


くまさんは男の子の手を引いて、そのトビラから男の子を遠ざけます。


「ママとじぃじも一緒だよ。」


くまさんを見上げながら男の子は言いました。


くまさんはにっこり笑って、


「いつも一緒にいるよ。」


と言って、いつもトクトク音がするところをさしました。


2人でケーキ屋さんに行って、くまさんは男の子にケーキを選んでもらいます。


男の子は初めてのイチゴのケーキに大喜びです。


くまさんは男の子の手とケーキが入った袋を優しく持っておうちに帰ります。


けれど、いつものおうちじゃありません。


そのおうちはカラフルでもなければ、きれいでもありません。

そこら辺にある真っ白なおうちより、少し大きいだけのおうちです。


「ここ、おうちじゃないよ?」


男の子はくまさんに言いました。


「ここが君のおうちで、あの子たちは君の家族だよ。」


と、くまさんはつまらないおうちで遊んでいる子どもたちをさします。


男の子はくまさんに手を引かれるままおうちに入って、気持ちのいい風が当たる庭のテーブルでくまさんと一緒にケーキを食べることになりました。


けれど、箱の中にはケーキが2つしか入ってません。


「ママとじぃじの分は?」


男の子は聞きました。


するとくまさんは、


「君の家族はあの子たちだよ。」


何度も聞きましたがあの子たちが男の子の家族みたいです。


男の子にはママとじぃじはいません。


「この水玉、どうやって描くの?」


側に寄ってきたお姉ちゃんが聞いてきました。


男の子はお姉ちゃんに描き方を教えると、

お姉ちゃんは泣きだしてしまいました。


「大丈夫。これからくまさんが君におえかきの仕方、教えるよ。」


男の子のズキズキした手とお姉ちゃんの頭を撫でて、また優しくくまさんは笑いました。


僕は正直もののくまさんが大好きです。

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