はじまり
「うわああああああ!?」
「天井が!?」
「ぎゃああああああ!?」
「博士! グレース!」
大きな揺れは全く収まらず、電気が消えるどころか天井までひび割れて落下して来た。それに銃を持っていた連中は巻き込まれたが、そんな事より博士とグレースだ。俺は慌てて二人を引っ張り、崩落している天井から少しでも距離を取った。
「停止力場展開!」
それでも研究室の崩壊は止まらず崩壊に巻き込まれそうになったが、グレースが物体の運動を止める停止力場を展開して、なんとか俺達に落下しない様に横へ逸らしてくれた。
「ごほっごほっ! ごぼっ!」
「おい博士大丈夫か!?」
そんな緊迫した状態で、車椅子から落ちた博士が咳き込み吐血までした。明らかに顔色が悪い!
「ぷぷぷ。ごほっ。多分撃つと思ってたけど本当に撃ってやんの。ぷぷ。うける。ごほっ」
「笑ってる場合かよ! 治療しないと!」
「いやあ無理無理。毒舌メイド、魔力測定できんっしょ?ごほっごほっ」
「はい私の計測器を振り切ってます。私が稼働しているのが不思議な程です」
「という訳。ごほっ。そんな魔力受けると人間って死ぬんだわ。ごほっ。まあアルティメットは元々完璧だし、毒舌メイドの回路は儂が弄ったからショートしてないけど。ごほごっほ。やっぱ儂って天才ごぼっ!」
いつもと変わらず自慢げに笑っている博士だが、顔からどんどんと生気が抜けていく! それにこんな瓦礫の中じゃ治療も出来ない!
「まあちょっと落ち着けアルティメット。ごほっ。自分で作った兵器で死ぬんだ。ぷぷ。これもうける」
「いいから黙ってろ! 今瓦礫をどかして治療できる所に行くから!」
「だから聞けっての。ごほっ。一時間前に最後の別れしなかったら、この機会にちゃんとしろって神様が言ってんだから。ごほごほっ。これまあ間違いなく超破壊爆弾なんだわ。つまり儂の作品。ぷぷ。最初はよくある話、永久的クリーンエネルギー。ごほ。ところがどっこい、爆弾にしたら凄いんじゃねって軍に考えた奴がいたんだわ。ごほ。儂ほどじゃないけどそいつも天才。ごほ」
段々と力が抜けていく博士だが、本当に撃つ手がない。グレースも言っていたが、俺の感覚器でも人間が生存できないと分かる程の魔力密度を感じるのだ。それはつまり、人間が生存できない環境……。
グレースも……首を振っている……。
「めんどくせって思ってたけど、まあ仕事だから作ったんだわ。ごほ。当然完璧に。戦略兵器として十分な破壊力。魔力による汚染。マナ回路搭載マシンのショート。ごほ。小型生物のモンスター化。うーん完璧」
「へっ。それで死んじゃお笑いだぞ博士」
これは、博士との最後の会話なんだ……息子と、親との。だから、出来るだけ普段通りに……。
「言えてる。ぷぷ。んで作ってるとき思ったんだわ。ごほ。あ、こいつら撃つわって。まあ共和国も先に作ってたら絶対撃ってたけど。ごほ。そん時天才ならではの発想が思い浮かんでな。相互確証破壊。ごほ。両方持ってたら流石に撃たんだろって。ごほ」
「撃ってんじゃん」
表情は元気だ。だが、もう。もう。
「ぷぷ、確かに。まあそんな訳で、共和国にも設計図送ってな。これで一安心。世界の平和は保たれませんでした。ごほっごほごほ。ごほっ。やっぱ人間ってあれだわ」
「博士も人間だろ」
「ああ……そう。そうだな。多分撃つとは思ってたけど……撃たないで欲しかった。夢のクリーンエネルギー………それはどこだ? ふふ。何故爆弾なんかになってる? だから俺は昔から人間が嫌いなんだ……あれにどれだけ人間の願いが……………人間の夢が詰まっていたか。だから……だから嫌いなんだ………」
「それで俺を?」
博士の意識が朦朧とし始めた。口調だってひょっとしたら若い頃に……。
「そうだ……我が子よ……お前には迷惑だろうが…………人間の姿のまま…………馬鹿な人間を超えて欲しかった………未練だな………この期に及んで………人間の形に拘っている………………」
それが博士の願い。俺が生まれてきた意味なのか。だが俺は……
「だけどその人間の博士と一緒にいて俺は楽しかった!」
「ぷぷ。ちょっと会話噛み合ってなくね? やっぱお前さん失敗作だわ。超生物作ったつもりが人間出来ちゃった。ぷぷ。だから失敗作の事なんて儂しーらね。ここ抜けだしたら自由に思った事すりゃいいさ」
「ははは……酷いぞ……」
だめだ。これが涙なのか。博士の顔がよく見えない。
「ぷぷ。今更。毒舌メイド………マスター権限で……お前さんの主をアルティメットに再設定……」
「はい。再設定完了しました」
ほんの僅か、ほんの僅かだけ博士の首が動いてグレースを見つめていた。
「まあ……今までご苦労さん……」
「お言葉ありがたく頂戴します」
博士の言葉にグレースは深くお辞儀した。
「ぷぷ。毒舌メイドが………出来るメイドに………じゃあなお前さんら………適当に…………やりたいようにやりゃあいい! だーっはっはっはっは!」
最後の、最後の力を振り絞って博士は笑い、そして、そして……!
「博士! 博士えええええええ!」
「お休みなさいませ博士」
博士の顔は
笑顔だった
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