第1話の5 ひととおりの体験終了

「ホリィ様、これはおねしょじゃないですよ。昨日は水魔法を練習なさったのでしょ。すごく練習なさったのですね、それできっと寝言で詠唱してしまったのでしょうかね」


 朝、メイドのアンジットが目を細めてそう言いながらベッドの始末をしてくれた。


「でも練習は手から水を出したのに、おねしょみたいな場所がぬれていたし」

「でもこれは間違いなくただの水ですよ。それに五歳ならまだおねしょしてもおかしくないのにホリィさまはえらいです。私は九歳くらいまでおねしょしてましたから」


 おねしょではなかったようだが、ベッドも寝間着もぬれていたので朝からメイドたちが大忙しだった。午前中は武術の稽古があり、午後の魔術の授業でおねしょ騒ぎを言うとカーマ先生は笑っていた。


「そんなこともあろうかと、水魔法にしておいたのだ。火魔法だったら大ごとだ」

「予想してたんですか? 教えてくれればよかったのに」

「まぁまぁ、魔石もなしに魔力のおもらしをしてしまうとは思わなかったからな」

「おもらしって……」

「昨日は魔石メダルを使ったが、ほとんど無詠唱で魔法の練習をした。魔石がなくても魔力を水魔法にして出すのを体が憶えていてやってしまったのだな」

「そんな、体が勝手に魔法を使ってしまったら困るじゃないですか」

「魔石なしでの魔法の使い方と魔力の抑え方を今日やるのだが、教える前に使えてしまうとはな」


 すべてお見通しだぞとばかりに先生は笑っていた。


「ところで君は普段はおねしょはしないか」

「もうおねしょはしてないです」

「なんでしなくなったのだと思う?」

「がまんできるようになったから?」

「そうだ。赤ちゃんはおもらしもするしおねしょもする。トイレをおぼえて、それまで我慢できるようになると、寝てるときも我慢ができるようになる」

「そんな気がします」

「だから魔力をコントロールすることが大事なのだ」

「わかりました」

「ところで、一番濡れていたのはどこだ? 利き手や足など魔力が出やすい場所から漏れる」

「えっと、おねしょと勘違いしてしまったので、おなかの下がぬれてましたけど、そんなおねしょと同じところから魔力が出やすいだなんてかっこわるいです」

「まあまあ、昨日は手からの練習しかしていないし、手がそこにあったのだろう、よくあることだ」

「はい、よくあることですか。それならよかったです」


 手がそこにあるのは先生もよくあることなのか。むふふ、それならよかった。


 その日は魔力のをしないように、魔力を感じたり留めておいたりする練習だった。

 数日が過ぎ、魔力を留めることが普通にできるようになった頃には水弾も打てるようになっていた。


 そして火魔法に進むことができた。


「これは火魔法の魔石のメダルだ」

「赤い石ですね。火だと赤くなるんですか」

「違う、魔法メダルはよく使われる魔道具だから、間違わないように赤くしてあるのだ。そう決められている」

「水は青で火が赤ですか」

「そうだ。あとは風が緑で、光が黄色で闇が紫だ。生活魔法でも使うメダルはそれくらいだ」

「光とか闇もあるんですか?」

「魔法メダルは魔道具に入れて使うのがほとんどだ。灯りとか馬車とかな」

 要は電池みたいなものか。


 火魔法も水魔法と同じように魔力が集まって火魔法に変換される感じだった。感触として水魔法と違うのはメダルが熱く感じるところだろうか。火魔法とはいうものの熱魔法といった感じで炎よりも熱が主体で強めていくと結果的に炎が出るもののようだ。水魔法は手の中で魔力がつぶれて海の波のように変換されるような感覚があり、火魔法は魔力がぐるぐる回って尖った波に変換される感覚がある。速くしようとすると波が大きく尖り熱が上がる感じだ。

 そして風魔法。これは手の中で魔力が大きくなったり小さくなったり脈動して四角い波に変換する感覚があった。光魔法は膨らむ感覚で鋸波形に変換、闇魔法は吸われる感覚で逆鋸波形だった。光は灯りのように光るのは予想できたが、闇魔法はなんと重さをとか密度を加減するものだった。重力魔法だったのか!

 風魔法、光魔法、闇魔法はメダル、つまり魔法石がないと発動できなかった。魔力制御をふくめて要自主練習だな。


 一通りをメダルで魔法体験するのにだいたいひと月ほどがかかった。

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