スリーポイント

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

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大学祭の初日は薄曇りながら、まずまずのにぎわいを見せていた。

亜依奈は気合いを入れていた。

ツインテールのリボンをいつもよりきつく結んで、喜色満面でキャンパスに飛び込んだ。

それがもう、一時間も前の出来事になっていた。


待ち合わせの相手は、ようやくもって小走りでやってきた。

そうしてキャンパスに踏み込む直前で、はたと足を止めた。

彼には、見えていた。

入ってすぐの場所に立ち尽くす亜依奈の体からは、鬼神のような怒りのオーラが発せられていた。


彼は、達則はつばを飲み込んだ。

すでに達則には、後退など許されていなかった。

達則は覚悟を決めた。

そうして一歩、キャンパスに足を踏み入れた。


瞬間、怒りのオーラは達則の肌を駆け上がった。

達則は身震いした。

それに遅れて、今度は亜依奈本体が詰め寄ってきた。

達則より背の高い亜依奈は、達則の胸倉をつかむと怒涛の勢いでまくし立てた。


「バカバカバカバカバカ達則!!

今何時だと思ってるの!?

亜依奈がどんなけ待ったか、分かってるの!?」


達則は揺さぶられて、赤縁の眼鏡をずらされながら言い訳した。


「ごめん、ごめん、目覚ましが、鳴らなくて、ちょ、離して」


亜依奈は押しながら離した。

達則は後ろによろめいて、通行人とぶつかった。

金縁眼鏡のごついおっさんににらまれて、達則は思わず縮こまって謝った。

亜依奈はそんなことも気にせずに、達則の腕をつかむとぐいぐいキャンパス内へ引っ張った。


「ほらほらほら、さっさと行くよっ。

大学生になって大学祭を楽しめなかったら、せっかくのキャンパスライフがもったいないよ。

気合い入れてツインテのリボンも新調したんだからねー」


「あのさあ、亜依奈」


達則は引っ張られながら、ぼそぼそとひかえめに言った。


「大学生にもなって、身長一七八センチで、ツインテはないんじゃないかと、ボクは思うワケで」


亜依奈の足が、ぴたりと止まった。

彼女からオーラが立ちのぼる前に達則がヤバイと感じたのは、幼なじみ歴一九年のなせる業だった。

亜依奈は振り返った。

マジ泣きしていた。

そして亜依奈は、亜依奈の感覚ではポカポカという擬音で、達則を叩きまくった。


「ひ、ひどいよひどいよ達っちゃん。

亜依奈がデカ女なの気にしてるの知ってるクセにいっ。

デカ女で悪いか、デカ女がツインテして悪いのかーっ!!」


達則はボカボカと殴られて、あやうく意識が飛びかけた。

亜依奈は唐突に殴るのをやめた。

それからコンマ一秒で泣きやむと、何事もなかったかのようににっかと笑って喋った。


「ま、どうでもいいや。

それよりほら、大学祭だよ大学祭。

キャンパスライフを楽しもう、楽しもーっ」


亜依奈は笑いながら達則を引きずっていった。

実に元気のいい笑い声だった。

金縁眼鏡のおっさんが、一人ぽつんと取り残された。

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