イジメっ子だった彼女と、イジメてしまった僕
久野真一
第1話 かつてのイジメっ子から、告白されそうなんだけど
【明日、卒業式の後、大事な話を伝えたいんだけど。時間ある?】
中学校の卒業式を控えた明日。
僕、
悩みの理由は、先程届いたメッセージ。
差出人は、
小六からの友達で、かつて僕をイジメていた相手でもある。
【大丈夫。心の準備はしておくから】
【うん。色々緊張しちゃうかもしれないけど】
【大丈夫だから】
【それじゃあ、また、明日。おやすみなさい】
ただ、イジメの話は遠い昔で、今はとても仲良くやっている。
ただ、とても仲良くやっている理由は少し複雑だ。
今の彼女に、かつてのイジメっ子だった面影はかけらもない。
むしろ、イジメがあれば率先して止めるくらいの模範的生徒。
おそらく、学校中でも、一番、弱い人に付き添える娘だと思う。
その変化のきっかけが僕だというのは嬉しいと思う。
でも、自意識過剰だったら、どうしよう。
◆◆◆◆
小六の春。僕は、何故か男女ともにチヤホヤされていた。
なんか、健吾君に聞けば色々わかる、みたいなノリだったと思う。
便利に扱われてるなあと思いつつ、悪い気はしなかった。
今となると恥ずかしい話だけど、知識自慢なところがあったし。
ただ、それが彼女、
らしい。
席が近い僕に、取り巻きの男子二名を使って、色々な嫌がらせをしてくれた。
ある時は、ロッカーからリコーダーがこつ然と消えていた。
また、ある時は、登校すると机が無残に倒されていた。
さらに、文房具を強奪されたり。
とにかく、好き放題やってくれた。
大方、僕がおとなしいと思って、反撃してこないと思って。
だから、好き放題やってきたんだろう。
ただ、お生憎様。僕は、ゲージが一定を超えるとブチ切れる方だった。
首謀者が双葉なのはわかっていたから、問い詰めた。
「ねえ、こんなことして楽しい?止めて欲しいんだけど」
「私がしたって証拠でもあるの?」
シラを切るつもりらしい。
「そう逃げに走るんだね。言っておくけど、容赦はしないからね」
「な、なによ。脅しのつもり?」
「いや、本気のつもり」
「ふん。好きにしなさいよ」
というわけで、僕は好きにすることにした。
そもそも、双葉は陰険なことで、同学年では評判が悪かった。
反対に、僕は性格は温厚そのもの、と思われている。
だから、クラスメートに、イジメられている事を浸透させることにした。
「わかるよ。双葉さん、ちょっとひどいよね」
「何か出来ることはある?」
一様に、クラスメートは僕に同情的だった。
我ながら、同情票を集めて回るというやり口が彼女以上に陰険だなと思う。
そして、一ヶ月くらい、そうした後の、学級会にて。
僕は、「イジメ」について取り上げることにした。
「僕は、ずっとイジメにあっています。その、本当は言いたくなかったんですけど、双葉さんと、
柏君と三船君は双葉さんの取り巻きだった。
この頃から双葉さんは綺麗だったし、何かしら惹かれるものがあったんだろう。
ともかく、この告発に、
「佐久間君、可哀想」
「リコーダー隠されたりとか、私も見てたよ」
「俺も見てた。双葉さん、ちょっとひどいよな」
とクラスメートは口々に、双葉さんへの非難を口にし始める。
こうなればこっちのものだ。
「双葉さん。佐久間君の言うことは本当なんですか?」
厳しい目で、担任の先生が双葉さんに問いかける。
当時の担任は人権教育を重視していた人だったから、効果的だったようだ。
「それは……」
双葉さんは目に見えて動揺していた。
クラスのムードから、自分の味方はいないと悟ったのだろう。
「その、ごめんなさい。僕も、双葉さんに言われて、逆らえなくて」
「僕も、です。本当に、ごめんなさい」
柏君と三船君は、いち早く謝ることにしたらしい。
積極的に加担していた癖にいけしゃあしゃあと、と思ったけど。
「双葉さん。イジメはいけないことです。佐久間君に謝りなさい」
担任の先生も、双葉さんが首謀者だというのを確信したんだろう。
僕としては、これで彼女が謝って、以後は、絡んで来なければそれで満足だった。
ただ、今思えばだけど。クラス中で吊るし上げるような真似はやり過ぎだった。
「ご、ごめんなさい。佐久間君。二度としません。許してください」
綺麗な顔に大粒の涙を光らせて、双葉さんは謝ってくれた。
(これで、めんどくさいのに絡まれなくて済むな)
我ながら、冷めていたと思う。
ただ、彼女のこの謝罪で決着はつかなかった。
どうやら、彼女はあちこちで反感を買っていたらしい。
「ごめんで済んだら、警察は要らないと思う」
「そうそう。大体、双葉さん、私にも嫌がらせしたことあったよね」
「そうだ、そうだ。ごめんの一言で済むと思ってるのか?」
「ねえ。それに、口だけかもしれないよ」
一気に、双葉さんへの不満がクラスメートから噴出する。
「落ち着いてください。双葉さんは謝ったでしょ?」
担任の先生は制止したけど、非難コールは鳴り止まなかった。
それ以来、クラス中から、彼女は総スカンを食らうことになった。
誰かに話しかけても無視される。
一緒に食事しようと、隣り合うと、避けられる。
などなど。
そんな日々が続いて、一週間程経ったある日のこと。
彼女は突然、学校に来なくなった。
「双葉さんもようやく思い知ったかな」
「そうそう。さんざん嫌がらせしといて、ごめんで済むわけないよ」
クラスメイトの多くは、口々に、いい気味だ、と言い合っていた。
ただ、僕は、とても心が痛んだ。
だって、僕はただ単に、絡まれるのが面倒くさかっただけ。
何も、彼女をズタボロにしたかったわけじゃない。
(これじゃ、僕がイジメをしたのと同じじゃないか)
彼女が不登校になって、ようやく僕がやり過ぎた事を理解した。
(よし、双葉さんのところに行って、やり過ぎた。って言おう)
僕はそう決めて、それ以来、彼女の家に足繁く通う日々が始まった。
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