第122話 闇に溶ける 7
横に足を垂らし馬に乗っている私とライア様はレオン様の邸へと歩いていた。
「本当にすみません」
「いいえ。…しかし、随分オズワルド様に大事にされてますね」
「意外と独占欲が強いのですよ。ライア様はオズワルド様やヒース様と仲良しですか?」
「仲良しでしょうかね?俺は二人より年下ですから。ディーネ公爵家をご存知ですか?」
「…結婚の時、お祝いの名簿に名前があったと思いますが…」
確かお祝いを頂いた名簿の上の方に名前があった気もする。
「王都から離れてますが、オズワルド様達のように代々魔法使いを輩出している家なんです。ですから、オズワルド様とも昔から多少は交流がありました」
「そうでしたか」
レオン様の側近になるくらいだからきっと実力はあるんだろうと思う。
オズワルド様も信用している感じだった。
もしかしたら、レオン様の相談にも乗っているかもしれないと思った。
あのレオン様が自分からセシルさんをエスコートしに来たのだから、ライア様がアドバイスをしたのかな、と思った。
「…リディア様…少し様子がおかしくないですか?」
ライア様に言われて前をよく見ると、誰かが騒いでいる。
そんな時に、地響きがした。
オズワルド様は大丈夫だろうかと、思わず来た道を振り返る。
「リディア様、馬から降りて下さい。馬が暴れたら大変です」
「は、はい」
ライア様に言われて馬にしがみつくようにして降り、地響きも気になるが騒いでいるところに歩いて近づくと、レオン様がうつ伏せのセシルさんの上に乗っかり抑えていた。
異様な雰囲気だった。
一瞬、まさかセシルさんを襲っているのかとさえ思うような体勢だった。
しかし、セシルさんを見るとゾッとした。
あの穏やかなセシルさんの表情ではなかった。
無表情で不気味さを感じたのだ。
思わず足が止まってしまった。
そして、レオン様はライア様に助けを求めた。
「ライア!セシルを止めてくれ!頼む!」
レオン様はセシルさんの背中で今にも泣きそうなくらい必死だった。
「一体これは何だ!?」
ライア様はレオン様とセシルさんの周りにいる魔法騎士に怒鳴るように聞いた。
「ライア様!眠りの魔法が全く効かないのです!」
どうやらセシルさんを止めようと眠りの魔法や色々かけていたらしい。
それが全く効かず、ここまで真っ直ぐ歩いて来た様子だった。
「ライア様、セシルさんは」
どうしたのでしょう?と聞こうとするが、途中で言葉が詰まってしまった。
ライア様の顔が先程と違いいつもの笑顔じゃない。
「…リディア様は近付かないで下さいね」
優しく言われるがどこか凄みのある声のトーンだった。
その言葉に素直に後ろに下がった。
「全員離れろ!セシルを閉じ込めるぞ!レオン様、離れて下さい!」
「…っ、嫌だ!離したらまた誰かを傷付けるかもしれない!!」
ライア様はその場で魔法騎士に、誰かを傷つけたか?と聞いた。
魔法騎士は皆、首を振り、まだ誰も…、と困惑していた。
でも、私にはわかった。
レオン様はエルサのことを言っているんだと。
エルサを止められず、私やフェリシア様に害を与え、私は特に命が危なかった。
…レオン様はずっと気にしていたのだ。
アレク様なら自分を押し殺してでも乗り越えたかもしれないがレオン様には難しいのだ。
ずっと自責の念に囚われているのだ。
「ライア様…レオン様はエルサのことを言っているんです…きっとセシルさんを離すことはないかと…」
「…ッチ、バカが…」
小さな声で呟くライア様は、きっと心の中では、バカ過ぎて嫌になる。とでも思っているような顔だった。
でも、ライア様はきっと見捨てないと思った。
何とかレオン様とセシルさん二人を助けようと思考を巡らせているように見えたのだ。
そして、ライア様は両手を前に突き出し、魔法を発動させた。
レオン様とセシルさんの周りに水が立ち上ぼり、水の檻に二人ごと閉じ込めたのだ。
立ち上った水はまるで生き物のように動き、あっという間に檻の型になった。
レオン様ごと閉じ込めることに魔法騎士達は躊躇していたのだろうが、ライア様は考えるも躊躇なくレオン様ごと閉じ込めた。
そしてすぐさまライア様は来た道を振り返った。
「何か来るぞ!障壁を張れ!レオン様を守るんだ!リディア様!早くこっちに!」
そう言われ、スカートを持ち、足がもつれそうなほど慌ててライア様の側に走った。
近付かないで、と言われて私だけ離れていたのが裏目に出たのだ。
そして、私の足の速さでは間に合わず後ろの空から何かが物凄い勢いで飛んできた。
ライア様が私の前に障壁を張ろうとしていたが間に合わないと思った。
━━━━━オズワルド様!
そう思った瞬間、私には音が聞こえた。
カチッ━━━。と
まるで、時計の針の音のようだった。
そして一瞬だけ時間がゆっくりになったと思うと、間に合わないと思ったライア様の魔法の障壁が私の前に張られたのだ。
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