第100話 番外編(バレンタインをしましょう)

朝からオズワルド様に買い物に行けと追い出されるように馬車に乗せられた。

馬車の中で隣はマリオンが座り、向かいにはリンクスとウィルが座っている。


「リディア様、今日は何を買いますか?ブラッドフォードの店ならいつでも貸し切りに出来ますよ」


リンクスが貸し切りは当然のように言ってきた。


「貸し切りはいいです。普通に買い物をします」


別に私が行きたいと言ったわけじゃないし。


「オズワルド様は今日は何かあるのですか?」

「…少し用事をされるだけです」


いつもなら買い物はオズワルド様が一緒なのに、今日は大事なご用なのかと思った。


街に着くと、今日は人が多い。

あちこちから甘い焼き菓子やチョコレートの匂いがする。

周りを見るとバレンタイン一色で店では女の方々が楽しそうに買い物をしている。


そういえば、今日はバレンタインだったわ。


今まで殿方にバレンタインなんかしたことなく、街人の様子で実感した。

マリオンも楽しそうに見ている。


「マリオンはバレンタインをしたいの?」

「い、いえ、リディア様はオズワルド様にお買いにならないのですか?」

「オズワルド様はあんまりお菓子を食べているのを見たことないわ」


オズワルド様は筋肉質ってわけじゃないけど、綺麗に引き締まった体だった。

間食もあまりしないし、コーヒーもブラックだ。

お菓子は食べないと思う。

しかし、バレンタインか。

オズワルド様ならあげたら喜ぶかもしれない。

初のバレンタインくらいしてもいいかもしれない。


「リンクスとウィルは待っててくれる?マリオンと行って来るわ」


そして、マリオンと高級チョコレート菓子店に入った。

リンクスとウィルは店先で立っている。

店に入る人達はリンクス二人を見ながら入って来る。


私は要人じゃないんだけど!


そう思いながら、チョコレートを選んでいた。

マリオンも何故か選んでいる。


「マリオンは誰かにあげるの?」


一体誰に?

こんな乙女のマリオンは初めて見た。


「…じ、実はですね。…ウィルなんです」

「…ウィル?」


いつの間に!?


「いつから!?」

「リディア様が行方不明になった後、ブラッドフォード邸に帰る前からお付き合いをっ…」


知らなかった。いつの間にか、マリオンにも相手がいたなんて!

しかもマリオン、可愛いわ。


「マリオン!買いましょう!チョコレートを沢山買いましょう!」

「一つでいいですよ!」

「今日は夜は私のことはいいわよ!ウィルとゆっくりして!」

「支度はします!」


私のことなんか今日くらいいいのに、と思うとマリオンは真っ赤な顔で何を考えているんですか。と困った顔になった。


「マリオン」

「何でしょうか?」

「結婚しても私の侍女のままでいてね」

「はい、勿論です」


そして、チョコレートをそれぞれ買い店を出ると、リンクスが楽しそうでしたね、と言ってきた。

どうやら、店先で店内の私達の様子をずっと見ていたようだった。


ウィルはいつもと変わらない。

しかしウィルか。

私のマリオンに手を出すとは中々やるわね。

オズワルド様の影響で手が早かったらどうしましょう。

でもマリオンの邪魔はしたくない。


思わず、ウィルをジィーッと見た。


「…何か?リディア様」

「ウィル、今日はチョコレート日和ね」

「はぁ…バレンタインですからね」


ウィルは、いつもと変わらなかった。

貰えると思ってないのかしら。


「リンクス、今日はもう帰ります」

「…もう少し買い物をしませんか?」


懐中時計を見ながらリンクスは帰宅を止めようとしていた。


「…何か問題でも?」

「ドレスでも買いますか?」

「要りません」


何故まだ帰らせようとしないのか。

まさか女が来ているんじゃないでしょうね!


「今すぐ帰ります!」


リンクスの制止を振り切るようにブラッドフォード邸に帰ると、玄関には馬車が止まっていた。


やっぱり誰か来ていた!

急いで馬車から降りると、オズワルド様が女性と馬車の手前で話している。

バレンタインだからと押し掛けて来たんじゃないでしょうね!


修羅場勃発か、と思ったが何だか違った。

女性の馬車には男性もいた。


「…オズワルド様?」

「リディア、もう帰ったのか?」


女性が私を見ると挨拶をして、では失礼します。と何事もなく帰った。


「…オズワルド様?何事もなかったように帰りましたよ」

「何事とはなんだ。…まさか疑っているのか?」

「…朝から追い出されるように邸から出されましたから」


オズワルド様は眉間に指を立てて呆れていた。


「こっちに来い」


オズワルド様に肩を寄せられそのまま部屋に行くと、部屋の中は薔薇をメインとした花で一杯に飾られていた。


「これは何ですか?」

「今日はバレンタインだ。リディアに贈ろうと思って、花屋に準備させた」


この為に私を朝から出したのかとわかった。


「ありがとうございます」

「浮気の心配は止めろ。好きなのはリディアだけだ」

「はい」


肩を寄せられた腕に力が入ったと思うと上からゆっくり唇が重なった。


「…オズワルド様にもバレンタインを買ってきました」

「くれるのか?」

「はい、生まれて初めて買いました」

「嬉しいよ。…手作りはしないのか?」

「私が料理をすると思いますか?」

「全く思わんな」


花で一杯の部屋のソファーに二人で座り、オズワルド様はチョコレートを食べて下さった。

その姿は嬉しそうでどこか笑顔だった。


「…オズワルド様…もうサプライズは止めて下さいね」

「勘違いするのが悪い」


確かに勘違いした私が悪いけど、と何だかバツが悪くなった。


「今度魔法薬の材料の魔法草を買い付けに行くから一緒にいかないか?」

「…謹慎中では?」

「王都には行かないし、いちいち行くところの報告なんかしないから問題ない」

「旅行になりますか?」

「少し遠いから、旅行になるな」

「…楽しみですね」


フェリシア様の時に魔力回復薬を結構な数を献上したから、どうやら魔法薬の在庫が欲しいらしい。

作るのは専門家に作ってもらうらしいが、魔法草は質のいいのが欲しく自分で買い付けに行きたいと話してくれた。

そして、私を旅行にでも連れて行きたかったらしい。


いつ行くのかまだわからないけど、少し楽しみになってきた。



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