序章

眠らない町の隅っこで一人

言葉を濁した住人は

亡くなった欲望の隙間に

愛しさを埋め込んでいった


少女がある嘘をついた

終わることのない夜の狭間に

「腐りきった果実も役に立つよ」

泣いていた、はにかむように


拾った猫の捨て場のようだ

傷を探り合って眠りについた

信仰のさらに深くまで

終わらない既視感が迫ってくる

無くなることのないはき違えた感情

寂しさの裏側に宿ってしまった

怒りと悲しみさえ

闇が包み込んでゆく


咲いていないはずの朝顔はほら

そのつぼみを開けようとして

一瞬くらんだ、唇の上

少女のうずいた手のひらが私の足を掴んで

光に照らされては爪を立てた

君はどうだい、私はもうわかんないや

一人きりの夢をまた見よう



眠れない町の噴水は流れるように

時計を正確に壊してゆく

言葉はもういらない

苦しさをどこかに置いてゆこう


涙の数を数える人はもういない

それでも私は覚えていて

爪を噛んで少女の頭を撫でた

憐みや妄想は消えていったはずなのに


月に照らされた女神像のようだ

暗がりに足踏みを繰り返して

祝福を与えるふりを続けていた

あの子守唄もあのかわいらしい服も

無くなることのない膨らみ続けた感情

歪んだ独り言の嘘も見抜けなくて

服従と愛情を

見誤っていた


咲いていたはずの朝顔もまた

とうの昔に枯れてしまった

ここで終わりを迎え入れよう

そして赤の他人だろう?

滲む爪の跡は

少女の存在を伝えていく


はじかれていった衝動

苦みが混ざった液はシミを作り出した

嘘と朝日を体にしみこませた

終わらないはずの夜をも吸い込んで

眠りについた少女の顔も見れないや


森の奥で一人

唄を歌って

また一人

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