第14話 聖女マリア。

「あらあら、マリアンヌ様、どうされたのですかそのお姿は」


 レティーナさまはあたしの格好を見るなりちょっと驚いたような顔をしてそう言った。


「すみません。ちょっと変装を……」


 あたしは勧められたソファーに座る前にフードとウイッグを取って眼鏡を外す。


「ごめんなさい。お騒がせしました」


 そうフェリスさまにも謝まって。


 ふかふかなソファーに腰を下ろすと、隣にフェリスさまがお座りになって。


 あう。ちょっと身体が近いよ。


「ところで、フェリス白騎士団長さまは本日はどうされましたか? 面会予約はありませんでしたよね?」


 あたしたちの対面に座ったレティーナさま、ちょっときつめの表情でそうおっしゃった。


 あれ? するって入室して来たから勝手知ったる感じなのかと思ったけどそうでもないの?


「すみません。西の魔の森で魔獣が大量発生しています。我々白騎士団が出動するのですが、聖女をお貸し頂きたくて」


「アイリスはどうしたのです?」


「彼女は、体調が……」


「体調が悪いのならわたくしが治してさしあげますよ?」


「ああ、いや、子供が……できたのです……。ですからあまり無理をさせたくなくて」


「あらまあ。それではどなたか騎士様と?」


「ええ。騎士ライデンと結ばれこの秋には式を挙げる予定です」


「それはそれは。おめでたいことなのでしょうけど……」


「申し訳ない。お預かりした聖女を……」


「まぁ。致し方ありませんね。騎士と聖女は共に戦い心を通わせる存在。お互いが惹かれ合うのもわからないでは無いのです……。ただ……、もうこの塔にはわたくし以外、聖女はおりませんよ?」


「なんと!」


「聖女の力を持つ者は年々減っています。ここ数年洗礼式でも新しい聖女候補は見つかっておりませんし……。貴族の姫であれば聖女の力を持った者も居りますが、そういった方々はこちらで聖女教育など受けられませんし。力を開花させる前に何処かに嫁いでいってしまわれますから」


「そうなのですか……。困りました……」


「わたくしは……、この王都の護りの為、この塔から動くことができません。今回は別の騎士団から聖女をお借りするようにしてはどうでしょう?」


「そうですね……。一度各騎士団に当たってみます」


 そう言ってこうべをたれるフェリスさま。あう。なんだか少しおかわいそう。


 でも、そんなに聖女って足りてないの?


(わたくしもよく存じませんけど、聖女は元々平民の中から選ばれていると聞いていましたわ。洗礼式で素質ありと認められたものがこの魔道士の塔で修行して聖女になるのだとか)


 そっか。平民の人だと名誉っぽいもんね?


(騎士との結婚目当てに聖女になりたいと、結構人気があったとお母様に伺った事がありました)


 へー。


(騎士団で功績を挙げた聖女には、聖女マリアの称号も贈られるのです)


 え?


 あう。それって?

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