第5話 魔道士の塔。

 フランソワーズお母様に抱っこされ王宮の中を行くあたし。


(ヴァリエラント公爵の……)


(あの猫がもしかして噂の……)


 道ゆく先々でそんなささやきが聞こえてくる。なるほど、うちは公爵家なのね。


 今までのお屋敷での会話とあわせどうやらあたしは公爵令嬢で、お母様は王様の妹だったっていうのはわかった。


 っていう事はマクシミリアン王子は従兄弟ということになるかな。


 マリアンヌの記憶がないあたしにはわからないけれど、彼女はマクシミリアン王子が好きだったのだろうか?


 婚約破棄って、ふにゃぁって思うのだろうか?


 マクシミリアン王子はどう思ってるんだろう……?


 本人が婚約破棄しようと思ったんだったらしょうがないんだけど、さ。


 あたしは……。婚約とかよく分からないんだけど、破棄されるとかはまあ、多少はね?


 ちょっとふにゃぁな気分にはなるのです、にゃ。




 それにしても。


 今向かっている先には魔道士の塔っていうのがあるらしい。


 王宮の一角にあり、常に聖なる守りでこの王都を守護しているのだという。


 そこにいらっしゃる大聖女様。


 かなりの高齢で、お忙しいからなかなか面会出来ないって屋敷の侍女さんたちが噂してた。



 その方なら、あたしにかけられたこの呪い解けるんじゃないかってお母様。


 っていうか呪いだったの? って、びっくりだったけど。


 どうやらあたしを最初に診てくれた薬師さんが、これは黒魔道の呪いに違いありませんって言ったとか。


 ほんとのところ原因がわからないみたいなんだけどもうお父様もお母様も大聖女様ならって思いに縋るしか無くって。




 でも、さ。


 今のあたしって、マリアンヌの部分って何処にあるっていうんだろう?


 身体は猫。白っぽいクリーム色の長毛種。


 お母様に抱かれて鏡に映ったその姿はほんと自分で見てもかわいかったけど。


 右眼が青緑、ターコイズ。


 左目が金緑、クリソベリルキャッツアイみたいな光沢で。


 両方ともあたしの好きな色。そんなオッドアイで。



 そんでもって心はあたし。本城茉莉花。なのにね?




 そうしたら……。



 本物のマリアンヌは何処に行っちゃったんだろう?


 もし呪いが解けて人間に戻った時、あたしはどうなっちゃうんだろう?


 そこがちょっと不安、なんだよね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る