第20話 エルフリッドの閉幕
俺たちは吹っ飛ばされていたジンを回収し、ゼキルさんとムブルグさんのお墓を作った。小さいものではあるが犠牲になった魔族たちの分まで、エルフリッドの兵たちは、これから王国騎士が他の国から派遣されて回収されたりするらしい。
リーシャは墓を完成させた後、ケジメをつけてきますと言い街へ一旦戻っていった。すぐに合流するらしいが、そんなにすぐ出てこれるもんなのか?
俺たちは遺跡に残っていた少しの物資を集めて旅の準備をしていた。とりあえず今いるのが王国領土の1番南だから北にむかいつつ情報収集をしようということになっている。
「これで全部だな…それにしても少年、見ない間に刻印が随分広がったな」
「あぁ…色々あってな」
「なるほど、大変だったんだな!」
話すのが面倒だったから色々って言ったけど、それで納得してくれるんだな。ジンと一緒に物資を運び終わったところで、森の中で使えそうなものを回収しに行っていたロロとエルも帰ってきた。
「たくさん採れたにゃ~」
「とれました!」
まだ悲しいだろうに、そんな表情は一切せずにエルは懸命に手伝ってくれる。籠にたくさん入った野草やキノコを見せてくれる。
「おぉ! こんなけあれば腹いっぱいになるな!」
「にゃ~、魚が採れる道具は無いのかにゃ?」
とりあえず準備はほとんど終わったから、王国各地から派遣されてくる王国騎士に見つからないように、とっととリーシャとの集合地点に行かないとな。
「にゃ~、もし罠だったらどうするにゃ?」
「そん時は、全力で抗うだけさ…もちろん容赦はしない」
「変わったな少年…まぁそれも一興! 行くとしようか!」
まだボロボロなはずのジンが元気よく馬車の先頭で声を出す。俺とロロは馬車の中で休むことにして、エルはジンの話を聞きたいからとジンと一緒に先頭にいる。そんな感じでとりあえずリーシャと合わせた集合場所にむかった。
◇
ガタガタと揺れる馬車の中で、のんびりと体を休めているとロロが話しかけてきた。
「にゃ~どこまで力を使えるようになったのかにゃ?」
「言って分かるのか?」
「最後の女以外の力は予想がつくにゃ~、呪いに制約をつけたにゃ?」
「なんでも知ってるんだな…最後に居たのは誰かは内緒だ」
「意地悪だにゃ~」
あまり深く聞いたことなんか無いし、きっと答えてくれないだろうから聞かないけど、ロロは大抵のことは知っている。『
謎が多いけど信用はしている。たまぁに肝心な時に消える癖があるけれど助けてくれるし、アドバイスが的確だからな、性格悪いのは嫌いだけど。
「せっかくジンもいるし、空いた時間は、このロロ様とジンでフォルカを鍛えてやるにゃ」
「ありがとう…願ってもない話だ」
基礎戦闘力を高めないとな話にならない場面が多くなってきそうだし。『
そういえば黒いやつを2体倒してから魔力の保有量があがった気がする。『
『
「とりあえず休める時に休まないとな」
「そりゃそうにゃ~」
声かけてきたのはどっちだよと言いたい気持ちを我慢して、少し眠ることにした。
◇
ーーエルフリッド北 恵みの丘
あれから少し休んでエルと馬車の先頭を交代して、ジンと2人で操縦している。外は真っ暗で休む時間だが、ようやく目的地が近くなってきた。
「ここらへんだな」
ジンがリーシャから印をつけてもらった地図を見ながら辺りをキョロキョロ見回す。
エルフリッドの街より数時間北で、大きな丘のある場所だ。夜遅い時間で、エルとロロは中でぐっすり眠っているし、俺も早く馬たちを休ませて餌をあげたいんだけど
「おっ! いたいた!」
ジンが指さす場所には、松明を持ち、別れた時とは違う騎士服を身にまとって、そこそこ多い荷物も持ったリーシャがいた。
近づいて馬車を停めると、リーシャが深く頭を下げてきた。
「わざわざここまでありがとうございます」
「ふむ…他の騎士たちに囲まれるのを少し期待していたが、普通だな」
「そんな不義理なことはしませんっ!」
元気なリーシャを馬車に乗せて、ジンと一緒に休めそうな場所を探し、良さげと思われるところに馬車を停めて休む準備をする。
エルとロロも起きてきたので、そういえば自己紹介なんてしてなかったと思い、みんなに提案してみる。
「にゃ~猫魔族のロロだにゃ~」
「エルです!」
「桜火の国出身で傭兵やってたが、少年に負けてついていくことになったジンだ」
「みんな淡泊すぎんだろ…」
本当に必要最低限な自己紹介を各自していく中、リーシャは気合が入ったようで、自分の番になると立ち上がり話はじめた。
ものすごい気合の入りようだけど、確かにたくさん知ったところでな気もしなくもないな。
「リーシャと申します。エルフリッド家の次女の生まれで、王国騎士学校を卒業しています。細剣と盾を使用した武技を得意としており、風と光属性の魔術もいくつか修めています。戦闘時は前衛で攻守どちらでも働けて、瞬発力には少し自信があります。任務でこういった経験はあり、食料の現地調達や調理はある程度こなせます!」
他の奴らの何倍もの情報を話してくれるリーシャ、エルは頑張って聞いているが、他の2人は正直眠そうだ。俺も眠い。
「改めまして、よろしくお願いします!」
「あぁ…よろしく、それで次はどこへ向かう?」
「それなんですが、私が元々友人と行く予定だった、この先6日ほど移動したところで開催されている歌劇団の公演を見に行くのはどうでしょうか?」
「なんの得があるんだ?」
「有名な歌劇団です。人と魔族のハーフだったり、呪い持ちの方でも今の時代珍しく活躍している劇団なので、興味本位で世界各国から人が集まります。情報収集するなら適した場所にも感じたのでチケットをもってきたのですが…」
世界各国とは言っても俺たちの知りたい情報をもっているような奴らがいるのかどうか怪しいな…とは言え他に手がかりがあるわけでもないしな。
「歌劇団!」
エルの目が輝いている。相当興味を引いたんだろう…まぁ他に手がかり無いし、せっかくチケットもってるのなら、可能性にかけて向かってみるのが良いか。
「まぁ…他に行くとこ無いし、まずはどんな形でも情報を得ないといけないから向かってみるか」
「はいっ!」
エルが元気よく返事をする。ロロとジンは眠くてぶっちゃけどこでも良さそうだ。
そんなやり取りをしながらリーシャと交流していく。
エルフリッドの街は他の貴族が治めることになりそうだと、領主が戦死したことになり継ぐものがおらず、かなりの被害をだしたことでエルフリッド家の名は落ちてしまうだろうと、母は悲しみながら引継ぎの準備をすると言い、父の仇を追おうとしているリーシャを止めようとしなかったそうだ。
母は王国の他の地域で騎士をしている兄を訪ねるそうで、エルフリッドの街からは出ていくそうだ。エルフリッドへの調査は王国騎士団第2師団が来るらしい。
「私は領主の娘として…騎士の娘として恥ずべき行為をしていますが、それでも成したいことがあります」
「まぁ…一緒に戦ってくれる分には、とりあえずよろしく頼む」
「はいっ、お願いしますフォルカ殿」
「たぶん同い歳だから、呼び方普通にしてくれ」
「わかりました、よろしく頼みますねフォルカ」
「あぁ…よろしくリーシャ」
とりあえずリーシャとの交流を済ませ、明日の移動に備えて順番に休んでいった。
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