第11話 呪いの秘密

 『虚飾ヴァニタス』使用後の代償である、身体の痛みから逃れるように眠ってしまったフォルカ。1戦交えて魔族側に加わることになった呪い持ちの剣士ジン。

 4人は遺跡に戻り、実は大ダメージだったジンは、フォルカを横にすると、自身も眠いと言い眠ってしまった。


 ロロはエルフリッドで手に入れた情報をゼキルに報告していた。



「そうか…間に合わなさそうだね」


「戦闘は避けられないにゃ」



 ゼキルは出来れば戦いを避けて逃げたかったが、エルフリッドの準備が思った以上に早いのと、すでに偵察の傭兵が放たれている事実を聞いて、ガッカリするような声を出していた。



「時間を稼がないと行けないね」


「領主の魔術部隊に武装兵中心の別動隊が何個か、傭兵も何人か雇ってるし、街では冒険者が守護してるって話にゃ」


「人も魔族も被害を最小限に抑えたいが、難しい戦いになりそうだね」


「相変わらず甘いにゃ~、魔術部隊にゼキルとムブルグにフォルカあたりが突っ込んで皆殺しにすれば済む話にゃ」


「そんな作戦を私がする訳ないだろう?」



 遺跡にいる魔族たちの安全が最優先ではあるが、捕らえらている魔族や戦いに参加させられている兵士だって同じ、誰も傷つけることなく戦いを終えたいという想いが捨てられないゼキル。



「3日くらいは時間があるにゃ、ノアの能力を阻止されないようにしつつ、遺跡から離れたところで戦える奴らが凌ぐしか無いにゃ」


「そうだね……ムブルグとノアに話をしてこよう」



 悪魔族のノアは範囲内すべての生物や物を転移させることが出来る能力をもつ魔族だ。発動までに時間もかかるし、必要魔力も尋常じゃなく多い。

 どうしたものかとゼキルは、未だ納得のいっていない表情をしながらロロのもとを離れた。


 

「どうせ、戦争なんて守る側の思惑通りになんか行かにゃいもんにゃ~」



 誰もいない、遺跡の一角でロロは誰に言うでもなく1人、そう呟くのであった。









 遺跡の一室でフォルカは少し痛む体を起こすことはせず、横になりながら考え事をしていた。



(戦いになるのは避けられない……どうすればいいんだ?)



 戦いになっちゃったら、どちらも甚大な被害は免れないだろう。

 多くの命は失われ、多くの人も魔族も悲しむことになる。ただ生きたいだけの魔族は、それも叶わず狙われ続け、領主の栄光のために犠牲になる捕らわれた魔族と兵士たち。こんなの許されるのか? 過去の歴史で悪さしたり、戦闘力が脅威ってだけで殺されるなんて…。



「……少年、少し良いか?」



 隣で休んでいたはずのジンが話しかけてくる。

 寝たふりしながら考え事してたのに、何故気付いたのか疑問に思うフォルカだったが、あんな簡単にこっち側に来て信用は出来ないけど、ここで暴れそうにもないからと応えることにした。



「…なんだ?」


「いや……せっかく呪い持ちの仲間だ、少年の呪いがどんなものか気になってな」


「……情報収集ってか?」


「ははっ…さすがに疑うか、ならば俺から話をしよう」


 どこか嬉しそうにジンはフォルカに語りだす。

 ジンの呪いは名前なんて無く、ただ人と斬り合いたくなってしまうだけの呪いだという。ジンが強そうと感じてしまった者と斬り合いたくて仕方なくなり、段々と他のことが考えられなくなってしまうものだ。

 戦っている最中は痛みを感じず、体の鈍さで痛みを感じているなと本人は思うようだが、なかなか自分自身を止められないらしい。特に自分と同じ武器を持っていたり、呪い持ちなんかは我慢ならないと笑いながら話す。



「だいぶコントロールできるようになったんだがな!」


「どおりで炎の中突っ込んで来ると思ったよ」


「はっはっは! 1ノ太刀さえ決まれば勝てると踏んだんだがな!」



 『1ノ太刀 集刃しゅうじん一伍一降いちごひとふり』ジンの奥義の1つ。フォルカたちとの戦いで使用していた剣技・轟断の1振りを5回分1太刀で浴びせるぐらいの威力のある技、魔力の消費量的に燃費は悪いが、魔術の防壁も貫ける威力がある。



「あのロロという魔族は何者だ? …まぁそれは本人に聞くとしよう! さぁ少年の番だな?」


「話すなんて言ってないけど……」



 プレゼントを待つ子どものように、フォルカを見つめながら話を待つジン。


 フォルカは内心困っていた。

 


(自分のことを少年って言うくらいだから、そこそこ年上なんだと思うんだけど、そんな無邪気な顔向けられたら話すしか無くなる…。)



 はぁ~とため息をつくと、仕方ないと一言ジンに言って、フォルカの持つ呪いのことを話し始めた。


 『八罪呪源アマルティア・オクトー』 この呪いは8つの力に分かれていて「虚飾」「嫉妬」「怠惰」「強欲」「暴食」「色欲」「憤怒」「傲慢」それぞれ人の形をしたやつだったり動物だったりしていて、8つそれぞれに意志があって、皆キャラが濃いんだ。

 力の使用後には代償が絶対あって、固定されてるやつもあれば、その場で決めてくる厄介なやつもいる。

 呪言を言わないと発動させてくれないやつや、何も言わず使わせてくれるやつと、すべて各呪源が決めている。

 ロロに助けられて、ある程度制御できるようになったけど、昔は朝起きるたびに、8つの内の1つが1日中勝手に発動していたらしい。



「らしい?」


「あぁ…小さい時の記憶が、いくつか無いんだ、たぶんこれもどれかの代償なんだと思う」


「なるほど……こんな幅の広い呪いは初耳だな」



 ジンは今まで、いくつかの名前がついている呪いに出会ったことがあるが、こんなに複雑なものは見たことがないと言う。

 この際だし、相談してみようと思い、フォルカはジンにさらに話かける。



「この8体は、それぞれ『呪罪完全契約テリオス・シンヴォレオ』っていう長い名前の状態があるんだけど……」


「……あるんだけど?」


「これは1度すると、解除できなくて、契約したそれぞれの最大の力を代償無しで使えるらしいんだ」


「それは凄いな! さっきの技も使い放題ということか?」


「あぁ……でも契約の代償が存在して、その内容はどいつも教えてくれないんだ」


「…なるほど、そいつは躊躇うな」



 発動中に何でも教えてくれる『虚飾ヴァニタス』ですら、それだけは教えてくれない。全員に聞いたわけじゃないけど、呼び出したことある奴ら皆、その契約代償だけは教えてくれずに「早く契約しろ」と急かしてくるだけ。


 こんなの出来るわけがない、ただでさえ普段の代償だって重いのに! とフォルカはいつも、その話をされる前に呪いの発動を切っている。



「読めたぞ…この後起こる戦のために契約するべきか悩んでいるんだな?」


「すごい……よくわかったな」


「少年の戦いの最中に言っていた発言から察するに、ここで暮らす魔族も、エルフリッドの兵士も死なせたくないと?」


「甘いなんて分かってるけど……捨てられなくてな」


「甘くなんてないさ! だが可能性があるなら貫かないとな! 悩んでいるだけでは解決しないからな!」


 

 先の戦いで見せた、その決意で負けを認めたんだぞ!と豪快に笑うジンを見て、その通りだなと納得するフォルカ。



「やってみないと分からないか……そうだな可能性があるなら、そっちに賭けないとな」


「おうともさ! まさか傭兵生活で、こんな面白いことにありつけるとはな!」



 気付けばジンにしていた警戒心も薄れ、2人は満足するまで話し続けた。



 

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