私のお父さん

凛輝

第1話 夢のお告げ

プロローグ


知らない土地へ旅に出たときの醍醐味の一つって、とっても楽しい気分の裏にひっそりと感じる寂しさなんじゃないかと思う。

知り合いもいない、土地勘もない、生活基盤のないあの感じ。

旅にそれを求めてるってのも私は、ある。

あの感じを表現する言葉が未だ分からない。


あ、それを探しに旅に出るのか。

旅は自分探しって、そういうことなのかな?

非日常を味わうってそういうこと?

だから旅は帰りたくなるんだ。


じゃあ、あたしはあの日からずっと長い旅に出ているのかも。


1.出会い


夜勤前の仮眠から目覚めて、しばらくボーッとしていた。

ああ、シャワー浴びなくちゃ。


シャワーを体にかけながらも、さっき見た夢が忘れられない。


小さい頃によく遊んでもらった父方のおじいちゃん、おばあちゃん。

二人が夢に遊びに来てくれた。

すごく幸せな時間だった。


久しぶりに心の芯が温まるような、そんな極上。

何年ぶりの感覚だろう。


そういえば、まだ生きてるのかな。

父とは小さい頃に別れ、それ以来祖父母にも逢っていない。


身も心も温まったところで、ああ、なんで夜勤なんだー!

この気分で遊びに行ければなぁなんて思っていた。



時間の確認がてら、iphoneを見る。

Facebookからの通知。

事務的にメッセージに返信し、ふと思う。


お父さんの名前でFacebookを検索してみるか。


検索してみると、名前が、ある。

プロフィールを確認すると、どうやら私のお父さん。


えー?

ほんとに?

見つけちゃったけど?


もう一度プロフィールを見る。


んー、どうやらあたしのお父さん。

それにしても見事にお父さんの友達は私の知らない人。


まあ、だいぶ長い時間が経ってるもんねえ。


もう一度、次は投稿してる記事を見てみる。


これは、なんだろ、機械のモデリング?

CADってやつかしら?

他にもCGらしき投稿がある。


頭の中が段々と「?」で埋まっていく。


えーっと、確か小さい頃の記憶では、何かの機械を開発してる人とは聞いたような。


そういえばものすごく頭が良かった覚えがある。


確か、特許を持ってると聞いたこともあるな。


なんじゃこいつ?


記憶を更に掘り返してみる。


チェリーってタバコを吸ってて、エンジ色のシャツが似合ってた。


なんか外車に乗ってた。借家住まいのくせに。


あとは、ああ、色々思い出したけど、ここでは割愛します(笑)


さーて、見つけてしまった見つけてしまったのよ、この夜勤前のタイミングで!


どうしよどうしよどうしよって、もうやることは一つよね。

やる?やる?やっちゃう?やっちゃえ!


あたしはメッセージを送った。


「でぺです。わかりますか?」


ああやっちゃったやっちゃった、私は夜勤中ずっとドキドキしながら働くんだ!!ああああ、心が苦しい!!

返事なんて来るのかな?


来ても来なくても苦しいい!

ああまあいいや!


少しパニックになりながら髪をまとめて薄化粧をしていると、iphoneが震えた。


え?


何か他のお知らせよね?LINEとかかもしれないしね。


そーっとiPhoneを表にしてみる。



Facebookにメッセージが来たと書いてある。


ええええーーー!!!


今更そのメッセージを確認しないわけにも行かないと思うんだけど、すっごく何が書いてあるか気になるんだけど、今人生の何かが変わる瞬間なんだろうけど、


あたしはメッセージを見ず、お弁当を詰めにキッチンへ向かった。


んだけど、遂にメッセージを開いて確認した。


「勿論分かるよ、元気か」


「モチロンワカルヨ、ゲンキカ」


それはそれは何とも無味乾燥なメッセージに思えた。


ああまあそうよねそうよね、生き別れた実子にかける言葉なんてないわよねそうよね迷惑だったわよねゴメンねゴメンねー!!


更にiphoneが震える、あたしも震える。


「NIHに行っていた」


エヌアイエッチー?


看護師の私が思い浮かべるのはNational Institutes of Health

だけど?


何で発明家崩れがアメリカの国立衛生研究所に?


いろんなことを思いながらも返信してみた。


「NIH?」


光の速さで返信が来る。


「アメリカの国立衛生研究所だよ」


ビンゴじゃん!


はあ?一体この人はNIHで何してたんだ?え?え?

っていうか、職業は何なんだろう?聞いてやろう!


と思ってたら、向こうから質問ラッシュが来た。


「でぺの職業は?」

「どこに住んでいる?」

「お母さんは元気か?」


こいつ、私に興味津々じゃん。


少し意地悪く返信する。


「修士号持ってるよ」


更に相対性理論を超えるスピードで質問ラッシュ!


「修士号か。専門は何?化学系?物理系?」

「こっちはN市に住んでいる」

「今は独身だ」


自分でこっちに聞いたことに答えて、個人情報を引き出そうってわけですね、お父さん!


そうはいく・・か‥


「あたしはO市だよ」

「看護師してる」


何で素直に答えてるんだろうあたし。

あたしに興味を持ってくれたことが嬉しい?せっかくの繋がりを切りたくない?こんなに長い期間放置だったのに?


「NIHで何をしてたの?」


やっと私のターン


「遺伝子治療の開発をしていた。」


はあ?私のお父さんが遺伝子治療?え?


じゃあ私も遺伝子操作で生まれた子?だからちょっと変人なの?え、つまりお父さんはショッカー作った人?んなわけないわな。


「えっと、じゃあ今もバイオ系やってるの?」


「製薬会社のお金でアメリカへ行っていた。」

「今は企業の依頼で開発をする毎日だよ。」

「創薬は危険だよ!」


「ところで本当にでぺか?」


「そうだけど」


「何で連絡しようと思ったの?」


質問にどう答えようか考えているとき、ふと時計を見ると出勤する時間になっていた。


「ちょっと行かなきゃいけないんで、また連絡するね。」


「分かったよ」


後日談だけど、この時点ではちょっとあたしかどうか疑っていたらしい。


あーあ、こんな気分で夜勤できるのかな。


と思っていたが、まあ何となく夜勤はこなした。


夜勤が終わってiphoneを見ると、お父さんからのメッセージがたくさん来ていた。


「返信が途切れたね、どうしたんだい。」


「娘の名前で近寄ろうという魂胆か」

「やり方が汚いな」


はあ?


もう一回


はあ?


「ごめん、夜勤してたの。言わなかったっけ?」


家に着いてシャワーを浴びようとすると、iphoneが震えた。


「夜勤、か。まあいい。」


「どこの病院?どんな病棟?」


それぞれに返信しているうちに眠りに落ちた。

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