自転車を漕ぐように
ノーバディ
第1話 自転車を漕ぐように
僕は怒りの感情に鈍感だ。
人から酷い事を言われてもそれほど腹が立たない。
人から雑に扱われてもあまりムカついたりしない。
でもそれは凄い事でも偉い事でもない。
寧ろ逆なんだ。
人にされて腹が立たないという事は腹が立つ事に気付けないという事。
気付かないうちに相手が腹の立つ様な事をしてるって事。
日本人はムカついてもその場でそんな素振りを見せたりしない。ただムカつきを溜めていくだけ。ただ嫌いメーターを溜めていくだけ。
そしてそれはいつか行動に現れる。
無視だったり敵意を込めた視線だったり態度だったり。
人に気を使えないと言う事と人の嫌がる事をしても平気というのは別の事。
人の嫌がる事をしたい訳じゃない。
出来れば笑っていて欲しい。
出来れば喜んでいて欲しい。
なのになぜか嫌がられる。
なぜ嫌われる。
「なんで人の嫌がる事をするの!」
「そんな事をしたらみんなが嫌な気持ちになるのが分かんないの!」
ゴメン、分からないんだ。
教えてくれたら次からは気をつける。
言われてすぐに全部は直せないかも知れない。
10回言われたら4回くらいは直せると思う。
だから教えて欲しいんだ。
それだけしか直せないの?
ゴメン。これが正直な気持ち。
ホントに分からないんだ。
同じ事をしても喜ばれる時と嫌な気持ちにさせる時がある。
周りのみんなはそれが『なぜ』か分かってるらしい。でも僕にはその『なぜ』が分からないんだ。
ぼくは自転車に乗れる。
ちゃんと運転できてどこへだって行ける。
自転車を漕ぐのってさ、凄く大変だよね。
2本しかない細いタイヤで転ばない様にバランスを取り続けるのって大変だ。右に転びそうになったら右にハンドルを切らなきゃなんないし左に転びそうになったら左にハンドルを切らなきゃなんない。
その先に石がおちてたらそれも避けなきゃならない。
その間足はリズムよく右、左と踏み続けなきゃいけない。
目的地までの道の考えながら左右に人が居ないか確認しながら後方から来るクルマに気をつけてる。
これらを同時にやり続けてるんだよね。
当たり前のように。
初めて自転車に乗れるようになったばかりの頃はみんな、それを一つ一つ意識してやってた筈なんだ。
バランス!ハンドル!障害物!
5分でヘトヘトだ。
ぼくが気を使うってのはそういう事なんだ。
え?意味が分からない?
そうだよね。
ぼくが何か行動する。周りの人の反応を見る。怒ってない。よし大丈夫。
こんな冗談を言ってみよう。
あれ?なんかみんな黙ったぞ。聞こえ無かったのかな?よしもう一度言ってみよう。
あれ?みんな不機嫌に?
やらかしちゃったのかな?
どうすりゃいいんだ?助けて!
人前ではこんな事を意識しながら行動してる。5分でヘトヘトだ。
みんなが無意識でやってる事、当たり前にやってる事を一つ一つ意識して、神経をすり減らしてやってる。
少しでも気を抜くと大事故だ。
そして嫌われる。
ぼくは一生自転車初心者の様に気を張り続けなきゃならない。
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