安楽庵探偵事務所 〜お客様は命日です。〜
かなたろー
ラストバトル
第1話 勇者ご一行と看板娘
勇者は魔王の城の中にいた。魔王の玉座の部屋の前にいた。
このドアを開ければ、最終決戦だ。
勇者は選ばれしスキルを持っていた。
そのふたりの仲間、武闘家の娘と、エルフの魔道士も、選ばれしスキルを持っていた。
そして、最後のひとりの
彼らの能力を説明しよう。
まずは、武闘家の娘。名前はタツミ・イヌウシ。冒険者レベル47。装備は武闘着。武器は素手。選ばれしスキル名は、〝
しかし、エルフの魔道士がいた。名前は、ホクト・ノースポイント。冒険者レベル48。装備はローブとブレスレット。武器はロッド。選ばれしスキル名は、〝
特定の装備品に、
そう、ホクト・ノースポイントの〝
ホクト・ノースポイントは、タツミ・イヌウシの武闘着に、〝
これにより、タツミ・イヌウシは、〝
とはいえ、
武器に攻撃力強化をエンチャントすれば、武器の威力が倍増し、防具に防御力強化や、属性攻撃無効のエンチャントすれば、大抵のモンスターの攻撃を無効化する。
敵の事前情報さえ入手すれば、ほぼ封殺を可能にする。
そして、敵の情報入手は、今回は欠席している
昔ながらの製法で作られた
求められる〝報酬〟は人による。人の価値観によって変化する。理想の恋人だったり、嫌いな人間の失墜だったり、シンプルにお金だったり。イツキ・ケブカワは、それらを事前準備して、相手に〝支払う〟事で、〝肩書き〟を強制的にレンタルできる。そしてこれらの〝報酬〟は対象の無意識下で行われる。イツキ・ケブカワから受け取ったことを理解できない。「なんか知らんけどラッキー」と思うだけである。
イツキ・ケブカワは、魔王の側近になりすまし、魔王の能力、具体的には攻撃方法を出来る限り勇者ご一行にリークした。そして、最終戦には自分より最適な人材がいると判断し、助っ人にアイテム鑑定所の受付嬢を選んだのだ。
鑑定所の受付嬢の事は一旦横に置いて、勇者の話をしよう。
勇者の名前は、テンセン・チチュウ。冒険者レベル33。装備は軽装の鎧。武器はバスタードソード。一見どこにでもいる普通の少年だった。
だが、彼の選ばれしスキルは、それはもう、とんでもなく選ばれしスキルだった。
選ばれしスキル名は、
そして最大のポイントは、理不尽かつ屈辱的な被害あたえてくる加害者を、〝心から愛する〟ことであった。
要するにこのパーティーは、真性ドMの勇者と、真性ドSのヒロインの絶妙な三角関係の強烈なシナジーによって成り立っていた。
テンセン・チチュウの現在の〝幸運値〟は、最大値の60。対象は二人いるが、それぞれ上限MAXの60。三人は、昨夜の宿屋でなかなかに複雑なプレイをお楽しみだったようだ。
さて、ここまで説明すればお分かりかと思うが、この勇者ご一行は、実質的には三人パーティーだ。四人目はあくまでゲストキャラクターだ。
三人の勇者ご一行は、選ばれしスキルと、トンデモないシナジーで、数えきれない無双を行い、数えきれないピンチ(痴情のもつれ)を乗り越えて、魔王の扉の前にたどり着いたのだ。
で、最後に、今回のゲストキャラクターを説明しよう。
ゲストの名前は、コトリ・チョウツガイ。冒険者レベル1。スマイルレベル23。装備はメイド服と〝かわのたて〟。武器は〝どうのつるぎ〟。あと、大きなリュックを背負っていた。
とある公益冒険者ギルドにあるアイテム鑑定所の受付嬢、つまり看板娘だ。
彼女の選ばれしスキルは、
勇者ご一行は、魔王の扉の前で、最終確認を行っていた。
勇者テンセン・チチュウは言った。
「みんな! これが最後の戦いだ! 気合入れろよ! ビクついてんじゃないぞ!」
武闘家の娘、タツミ・イヌウシは言った。
「って、あんたが一番びくついてるでしょ。足、ガタガタじゃない」
勇者テンセン・チチュウは足を震わせながらいった。
「む、むむむ武者震いだ!」
エルフの魔道士ホクト・ノースポイントは言った。
「それ、誤用。
〝武者震い〟は、武者が戦に向かう前に、適度な緊張で気持ちが高まり、震える様子。昨日のお布団の中のテンセンのこと。ステキ。
現在発生しているのは、恐怖や緊張をやせ我慢しているせいで震える行為。つまりはヘタレ」
武闘家タツミ・イヌウシは、イジワルな可愛らしい笑顔で言った。
「ほんと、昨日のたくましさはどこへ行ったのかしら?」
「う、ううるさいなあ!」
勇者テンセン・チチュウは顔を真っ赤にして言い返した。
そして奇跡が起こった。テンセン・チチュウの〝幸運値〟が上限を超えた。限界突破して、61になった。
タツミ・イヌウシ、ホクト・ノースポイントに対しての〝幸運値〟が61になった。愛の奇跡だった。
ゲストのコトリ・チョウツガイはニコニコしながら関西弁のトーンで言った。
「昨夜はおたのしみだったみたいですね。
とりあえず、魔王を倒して、本日もお立ち寄りください。スイートルーム空けときます。各種オプションアイテムもご用意しております」
この言葉に、勇者ご一行はいろめきだった。公益ギルドは宿屋を併設していたのだ。
テンションがMAXになった勇者ご一行は、勢いよく魔王の玉座の間のドアを空けた。
厳密には、武闘家の娘、タツミ・イヌウシが蹴り破った。
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