第13話 過去

 俺は昔から恵まれてたと思う。

 両親はともに人気の小説家で金関係に困ることはなかった。

 学校でも友達と言える人が近くにいたし、毎日自由に生きて楽しく過ごすことができていた。


 だから大事な存在に気づかないことだってあるし、当たり前のものがなくなった時なんかは絶望だってした。


 俺は小さい頃、今あるものはこれからもあって当然で失うことなんてないとすら思っていた。

 そんな幼稚で愚かで考えなしな小さい俺は当たり前にあると思っていたものを小学校の時に二つ失った。


 そしてその時気づいたのだ。

 俺はなにもわかっていなかったことに。

 何かをわかっている気に……いや、何もかも全てわかっている気でいた。


 自分にとって当たり前のものは他人にとっては当たり前じゃないものもあったり、その当たり前はいつか突然急に亡くなってしまうことだってある。

 そんなことも俺はわかっていなかった。


 絶望したよ。

 失った時にはそれこそ死んでしまいたいと思ったほどに。


 なんで俺なんだよ。

 日本、いや世界中にはたくさんの人がいるのになんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないかったんだよ。

 俺はただ、楽しく毎日を生きたかっただけなのに。

 

 どれだけ悔やんだか。

 どれだけ嘆いたか。

 どれだけ死にたいと思ったか。

 こんなことになるなら……いっそ。

 そう思う俺が自分自身のことをどれだけ嫌になったか。


 

 まあ、今となってはよかったと思うこともある。


 俺は小学6年生の時に事故にあった。

 ちょうどサッカーの関西大会で勝ち抜いて全国大会行きが決まった日だ。

 全国を決めて海斗と悠亜と一緒に家に帰ろうとしていた途中。

 一台のトラックが俺たちに突っ込んでくるのが見えた。

 俺と悠亜は反応できたが海斗は別の方を見ていて反応ができていなかった。

 俺は海斗が反応できていないのを見た。

 その瞬間俺の身体は動いていた。

 止まれない。

 動き出した身体は止まらない。

 そして海斗をトラックの前から押し出して俺もトラックの前から抜け出した。

 

 よっしゃ! 海斗助けれた!

 海斗は俺に押されてまだ混乱しているが俺と悠亜は助けれたという気持ちだった。

 そう思っていた……。

 

 そして安堵の息をこぼした俺。

 突っ込んできたトラックは俺たちの横を通り抜け、他の車にぶつかった。

 ぶつかられた車はまっすぐ、俺と海斗に向かっているかのように近づいてきた。

 車は俺にぶつかった後、俺の上に被さるように海斗にもぶつかった。

 

 俺は意識朦朧としているなか目だけで海斗がどこにいるのか、どうなったのか探していた。

 そして俺の視界が海斗を捉えることはなく、視界が真っ黒になった。

 

 真っ黒ななか聞こえるサイレン。 

 誰かが俺の名前を呼んでいる。

 その声が誰かその時の俺には認識できなかった。

 意識が飛んだから……。

 

 

 その後目が覚めると病院のベッドの上にいた。

 身体は少しでも動くと猛烈な痛みを感じる。

 目が覚めた俺が最初に聞いた言葉は……。

「普通の生活に戻れるかわからないです」

 そう両親に告げる医者の声だった。

 



 俺はそこで現実に思考を戻した。

 あの事故、普通の生活にすら戻れるかどうかわからないと告げられた絶望。

 

 とても辛い出来事だった。

 でもあの事故がなかったら今の主人公になりたいと思っている俺にはなってなかっただろう。


 だから、俺はあの事故すら良かったとすら思っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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