主人公になりたい。

KID

一章 過去とやること

第1話 プロローグと入学式

 昔に読んだ父の本。


 かっこよく人を助けて、巨大なモンスターに立ち向かう。

 たくさんの謎を解決して、犯人を見つける。

 感情豊かに会話をし、何かに打ち込む。

 美少女とイチャイチャする。


 そんな父の本に出てくる主人公に憧れた。


 そしてその主人公たちは物語の中では欠かせないものだ。

 俺はその物語に欠かせない主人公になりたいと思った。


 そのために俺は人よりも努力して、頑張って、何があっても前を向いてかっこよく生きてやる。


 あの日見た物語の主人公のように。


 俺があいつを振り向かせることができるように。



 そして、その決意をした約四年後。

 俺は高校生になっていた。

 イケメンで成績優秀、そしてスポーツ万能。

 身体は程よく引き締まっており、道を歩けば誰もが振り向く。

 そんな少女漫画に出てくるようなイケメンキャラがこの俺、黒咲くろさき そらだ。


 そんな俺は今、すごい視線を集めている。

 ほんとにすっごい視線を集めている。

 理由は明白、俺が誰もが羨むイケメンだからだ。


 と言うのは半分冗談で注目を集めている本当の理由は俺が高校の入学式で新入生代表の挨拶をしているから。


 この私立興南大学高等学校は毎年その年の入試で一位の点数を取った生徒が新入生代表の挨拶をすることになっている。

部活、勉強ともにここら辺じゃトップクラスのうちの高校には勉強推薦とスポーツ推薦、そして両方がトップクラスの生徒の特別推薦がある。特別推薦は毎年最高でも三人しか撮らないらしい。

 そしてその三人のうちの一人は俺だ。さすが俺。


「以上を持ちまして新入生代表の挨拶とさせていただきます」


 挨拶は順調に進み、もうすぐ終わる。


「新入生代表、黒咲 空」


 ほら終わった。聞いてると長いと思うこと多いけど話してると案外短いもんなんだよな。


 挨拶も終わったし裏に戻ろうとした、その時…一人の教師が裏からこちらに出てきた。

 楽しそうな…ドSの女王のような美人な女性が来る。


「ちょっと! 何してるんですか! 平澤ひらさわ先生!」


 教頭と思われる人物が止めに入ったが依然止まる気配はない。

 そしてこちらに近づくにつれ彼女の笑みは深くなっていく。

 なんかオーラが見える……。

 そしてついに俺のところまできた。


「おい、そんな優等生みたいな挨拶だけで終わりか? もっと面白いのを期待してたんだけどなー」


 そんなことを俺にだけ聞こえる声で言った。

 そんなんで俺が対抗心を燃やすと思っているのだろうか。

 まあグツグツに燃えたぎっているんだけどな。

 しょうがないなー、そう言いつつ俺は再び前を向き口を開いた。


「俺がこの学校に来たからには学校行事でも勉強でも部活でも恋愛でも一番楽しんで一番成績を残す! だから一番になりたいやつはみんなまとめてかかってこい!じゃありがとうございましたー」

 俺は爆弾発言とも言える言葉をパパっと口にした。

 一部生徒からヤジが飛んでくる。当然だろう。


「ふざけんな!」

「イケメンだからって調子のんな!」

「キャーかっこいい!」

「抱いてー!」


 全校生を敵に回す発言。

 だけど俺は止まらない。

 止まる気なんてさらさらない。

 この学校でぐらい一番になってやる。

 俺が主人公だ。

 負ける気なんてしない。


 ところで最後の抱いてーに関しては身内が言ってて恥ずかしいとか思ってます。



 そうして俺の挨拶は完全に終わった。

 色んな意味で。

 しかし始まりでもある。


 そして裏に戻る途中、平澤先生は悪魔的笑みでぼそっとこう言った。


「うわ、ナルシストだ。ナルシストがいるー」


 うっせいやい。

 促したのあんただろ。

 そんなんだから結婚できねーんだよ。

 そう心の中で愚痴ったとき、平澤先生に睨まれたのは気のせいだろうか。


 気のせいに決まってる。

 だいたい人間に人の心を読むことなんでできるわけが……いや、この人ならできそうだな。

 挨拶後、俺と平澤先生はいろんな先生に怒られた件に関しては、無かったことにしたい……。


 そして教室に戻る途中。

 ふと窓から空を覗いた。

 その空はどこまでも青かった。


 どこかの誰かに嫌われ、どこかの誰かを惚れさせる。

 自ら壁を作り、それに立ち向かう。

 俺が主人公の物語は、今日もつつがなく平和なエンドロールへと進むらしい。

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