どん底から始まる恋もあるらしい

りゅう

第1話 最悪の出会い

 その日は災難から始まった。


 4月6日月曜日、今日は始業式だというこの日、俺は痴漢容疑で警察まで連れてこられていた。


 その日の朝。いつも通り起き、染めた金髪の上から多めにワックスをつける。ピアス跡にまたピアスを通し、朝ご飯を食べる。両親には風貌を心配されているようだが、そんなことに関係はない。ご飯を軽めに済ませ、制服を緩く着る。第一ボタンはもちろんつけない。


「よし、そろそろ行くか」


 鞄に適当に教科書とかを詰め、肩に掛ける。ここから駅まで約1km。そこから電車で3駅。そこからまた歩いて約2km。約50分を通学に費やしている。正直だるい。校則は緩く、そのおかげで俺はこんな格好ができている。


「は~、疲れた。春休みの宿題多すぎんだよチクショ…」


 読書感想文、英語、数学の予習etc…昨日はそのせいで全然遊ぶことができなかった。ずっと春休みだったらいいのにな…と思っている間に、駅の近くまで着いた。


 駅前の道を斜めに横切り、自転車置き場の前を通り、パチンコ客に舌打ちをして、駅に入っていく。


 池袋行きの急行を待つ。しばらくして電車が来て、いつものように7号車に入っていく。いつも人がまばらなはずの車両は、新学期になったのもあるだろうがいつもより4割増しで人が多かった。


 次の駅。人がまた何人も乗り込んできて、電車はいよいよ満員になった。ドアは何とか閉まり、電車はまたゆっくりと走り出した。


 その次の駅。この駅でもまた人が何人も乗り込んできて、立つことすら難しい混み具合になってきた。


 次の瞬間、電車が大きく揺れて、俺は前後の人とぶつかり合ってしまう。前は女子高生、後ろはおじさん。なんかごめん、とか思っていると。


「キャー、痴漢です! 捕まえてください!」


 前にいた女子高生が叫んだ。え、え?と思っていると、両腕をおじさんたちに掴まれた。


 あっ…痴漢って、俺のこと…?


☆☆☆


 ということで、俺は今件の女子高生と隣の席で並んで事情聴取を受けていた。もう始業式始まってるんだろうな、俺のクラス何組だろ…


 事情聴取は全然進む気配がない。彼女は痴漢を主張し、俺はそれを否定する。そのうち説得のムーブになり、俺は否定し続け、最終的に相手が折れる形で終わった。


「本当にやってないんだけど…ガチで勘弁してくれよ」


「うるさいですね、


「ガチでやってないっつーの。てか、どこまでついてくんの?」


「私、香楠こうなん高校の生徒なんで。あなたこそ、どこまで行く…つもり…」


 顔が見る見るうちに青ざめていく。俺も香楠高校の生徒、つまり…


「同じ学校じゃないですか! こんな犯罪者野郎と!」


 俺は最大限のにやけ顔で、


「残念だったな、俺と同じ学校で。まあ、せいぜい仲良くしてくれよな」


「最悪です…こんな犯罪者と…」


「その、犯罪者っていうの、やめてもらってもいい? やってないのにそうやって呼ばれんのすごい心外なんだけど」


「やってないかは分からないじゃないですか! まあでも分かりました、とりあえず犯罪者呼びは止めましょう。じゃあ、名前を教えてください」


「俺は風張透也かざはりとうや、2年生。クラスは…えーと、D組だ。君は?」


「私は氷沢凛ひざわりん、私も2年生。クラスは…B組ですね、同じクラスじゃなくて良かったです」


 こいつ、いちいちムカつく。見てくれはいいんだけどな。


「じゃあ、一応、氷沢って呼ぶわ」


「まあ、呼ぶこともないと思いますけどね」


 まあでも、呼ぶことなんてないか。別のクラス、そもそも確かA~C組は文系だったはずだから一緒になることもないだろうし。でも、初対面の印象は最悪だった。

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