World is creative

@karasirenkon

序章

暗い廊下に足音が鳴った。

カツンカツンと静かに1人分の靴音が暗闇に溶けて消えていく。


目の前の扉に慎重に手をかける。

ゆっくりと開けて中に入る。

ただそれだけの仕草にも何か緊張感がある。


暗闇の中に男がいた。

車椅子に乗り、こちらを見ながら気持ちの悪い笑みを浮かべている初老の男性。

名前は確か……

「クラウス・ドラグノフ……博士?だったか」

製薬会社『ティア』の最高責任者、大学の教授としても名を馳せた『敵』の名を呼ぶ。

「やぁ、君はえーと窕君だっけ?少し日本語の発音は苦手なのだけれどあってるよね?あれから10年長かったじゃないか」

拳を握る手に力が入る。親の、友達の……仇を目の前にしても冷静さを失わせる訳には行かない。こいつの残虐さと冷酷さ……そして緻密な計算高さはこのまま無策で何も起こらないわけはない。それくらいはこの数年で、いや十年前のあの日から嫌という程理解している。

「君が『管理者』として目覚めて、先代に時渡りで逃がされて、まぁ補足するのに時間はかかったけれど……よくよく考えてみたら君たちは僕らを倒すことが目的だものね、座して待つ方が良かったかな?」

「そうだな、今も世界の意思はお前を、『ティア』を殺せと願っている、そしてそれは俺も同じだ……できるならそのまま死も座して待っていろ」

銃を抜き照準を合わせる。5年、時渡りで5年後に飛ばされてからずっとこいつを追い続けてきた。やっと……この因縁が片付けられる。

けれど、そう上手くは行かないものだ。

分かっていても腹が立つ。

打ち出した弾丸は確かに奴の額に命中した、眉間に正確に打ち出された弾丸は速やかに奴の命を奪うはずだった。

「君は今のこの世界をどう思う?」

だが、この化け物はそう簡単には死んでくれないのだ。

「意味が無いとは思わないかね?」

ググッと上半身が起き上がる。

「私を殺しても無駄だよ、これは死体を繋ぎ合わせたただの人形だ」

「チッ、悪趣味だな」

「なんとでも言いたまえ。そして、君にはここで捕らえられてもらう」

「は……っ!?」

後ろからの殺気に咄嗟に銃を向ける。

「誰だお前……!」

後ろにいつの間にかいた黒髪の……少年は無表情のままこちらを見た。

およそ人が放てる殺気じゃない。

だが数年調べてやっと手に入れた証拠をみすみす逃がすつもりもなかった。

「装弾『Fire』!」

銃弾に様々な属性を付与する能力、それが世界の意思が俺に与えた能力。

その速さは通常の弾丸の速度の約10倍、秒速4km、その速度はマッハ3に値する。無論肉眼で捉えることは不可能……だが。

気づけばその少年は同じ表情のまま目の前に立っていた。まばたきひとつせずに見ていたはずだ……なのに銃弾を避け、更にはこちらへと距離を詰めた……?

「っ……くそが!装弾!『Magnet』!」

自分の真下に向けて銃を放つ、着弾した銃弾が磁力を発生させ全てのものを反射する、特殊な弾、とにかくこれで距離を……。

「しっつこい!」

一時的に離れた距離がまたゼロまで短縮される。しかもこれは……能力じゃない、ただの膂力だ、それだけで馬鹿みたいな速さを生み出している。

「ははは!彼は僕の作った人造人間の中でも優秀な方でね!特に対人格闘術に至ってはうちの中でも1番と言っていい!」

他にもいんのかよ!という文句を奥に仕舞い込み、銃をもう一本取り出す、俺の銃は特別製だ、元々威力を調整や様々な特殊な効果に耐えられるように設計されてる。

「装弾『Lightning』!」

2発、追ってくる少年の手前左右に打ち込む、着弾した銃弾が大きく弾け着弾点を結ぶように電流が流れる。

だが、それすらゆうに飛び越えられる。

1秒の時間稼ぎにもなってない。

そもそも音速の弾を見切るやつを想定した弾なんてない。

「……もういいよ」

後ろから声が聞こえた。

瞬間首に鈍い衝撃が走り目が霞んだようにぼやけていく。

「ちく……しょう……」

そして意識を落とした。



世界はひとつではない。

ありとあらゆる世界はそれぞれの微細な繋がりをお互いの証明として成立している。

だがその事を知性持つ生き物たちは、その世界に住む人達は知らない。

知っているのは一部の人達と管理者と呼ばれる繋がりを管理するもの。

そして、その世界の平和を管理するものだ。

それは神々にも近い世界の意志によって選ばれる。力と共に大きな業を運命を背負った者が選ばれる。

それはそんな意志によって選ばれた少年と、その家族たちの証明のための物語。

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