第31話カオルの母親

白を基調とした高そうなアンティークの家具に、囲まれたオシャレな部屋。

そこにはパーティードレスが散乱し、キツイ香水の匂いが充満していた。

三面鏡の前に髪の長い美しい女が座っている。

赤いリップを塗りたくっていた。

真っ赤の唇に金のパーティードレスを着て、底の赤いルブタンを気怠そうに履いた。

「嫌だああ。行かないでええ!」

泣きながら女の後を追う子どもがいた。

小さい色白の、淡い水色の瞳の男の子が母親に縋りつき、泣き叫んでいた。

派手な女は振り返りもせず、子どもを一人家に残した。


何時間たっただろう…

一人家にポツンと取り残され大きな家具達に圧倒される。

生きている者が自分だけな気がしてくる…

男の子は涙で顔をグシャグシャにしたまま、一番下の本棚の奥から深緑色の厚い本を抜き取った。

覚えたての術で魔物を出していく。

魔物はフワッと現れフッと姿を消していく。

力を精一杯込め一つの魔物を創りあげた。

フワフワした魔物をガッと掴みギュウと力強く抱き締めた。

薄いピンクの魔物は、男の子の腕の中でパタパタと苦しそうに藻掻いていた。

魔物はピンクの風船から、青い風船のように変化していく。

おれは胸が苦しくて、必死で腕で締めた。

「何してるんだ!?苦しそうでだろ!?」

高い少年の声が聞こえた。

少年に腕を掴まれ、魔物を逃してしまった。

青くなった魔物は、逃げるようにシュルッと姿を消した。

そこには一回り年上に見える、男の子どもがいた。

おれは人型の魔物か?と思い、その少年の腕を引っ張り腕に抱きつく。

「何!?」

少年は驚き顔を引き攣らせている。

腕から男の子を引き剥がそうと、少年は抵抗している。

が、その小さい男の子は、想像出来ない程の力で少年に抱きついていた。

「ゔゔゔ…何で?」

男の子は少年の耳元でグズり始めた。

少年は心配そうに男の子を見た。

「何で、何で…!何で母さんは僕のこと無視する?何で!!」

パリンッ!! 

大きな音をたて窓ガラスが割れた。

少年は顔を青くし固まっている。

「何で!お前が答えろ!!」

子どもとは思えない強い声が大きく響く。

少年の胸ぐらを掴み、力任せに身体を揺さぶった。

少年は耳を塞ぎ恐怖に顔を歪ませていた。

だが少年を強く睨んでいた。

「何だ、その目は…答えろって言ってるだろ!!」

ぼくは拳を振り上げた。

男の子は耳を塞いだままフッと姿を消した。

ポツンと大きな屋敷に独り残される。

涙が込み上げてくる。

「みんな…みんな…ぼくを無視する…!!」

男の子は近くにあった本を壁に投げつけた。

ガンッ!と鈍く重い音が響いた。


様子のおかしいカオルに出逢ってから、ぼくの頭に不思議な光景がよぎる。

(断片的に記憶が戻ってきているのか…?)

あの幼い行動をするカオルを見た時、鈍い痛みが襲った理由が少し分かった。

あの男の子に既視感があった。

綺麗な淡い水色のキラキラした瞳…カオルにそっくりだった。

フッと意識を離すとその時の光景がありありと現れる。

[おれは小さい時一人の時が多かったから…]

寂しそうにカオルが言っていた。

その言葉が頭の中で寂しそうに響く。

ぼくはその声を頭から振り払い、目の前の現実の世界を確認した。

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