第15話記憶消し

ぼくは魔法でカオルの記憶を消した。

ぼくは黒魔法使いだ。

光の魔法が苦手だ。

闇の魔法を使うことが得意なぼくが、光魔法か苦手なのはすぐに予想できることだ。

だが闇の魔法を使えることは誰にも知られたくなかった。

もし知られてしまったら、誰もがぼくを気味悪く思い、周りに人は近寄らなくなるとわかっていたからだ。


カオルはイライラしている。

半日の記憶を消したということは、ぼくが八つ当たりした後ぐらいだろうか?

また機嫌を伺わなくちゃいけないのかと、少し面倒くさくなる。

ぼくの心を知ってか知らずか、無表情でカオルはぼくの髪をなでていた。

人がいない内はいいが、もし見られたら訝しげられる。

ぼくは周りが気になり、キョロキョロと辺りを、見た。

それが気に食わなかったのか、カオルは益々機嫌が悪くなった。

両手でワシャワシャと撫でられる。

カオルの犬になった気分だった。

だが、ぼくは周りからどう思われるか考えるのは諦め、カオルの機嫌を直させるため、なでられている手に極力抵抗しなかった。

(どうしよう…)

カオルの怒りを抑えるため、ぼくは前から抱き付き、カオルの胸板に顔をうずめた。

カオルはレイジロウの背中をなでる。

匂いを覚えるように、レイジロウはカオルの石鹸の香りを吸い込んだ。

(温かい…それに、いい匂いだ。この人がカオルだ…)

ぼくは匂いを、自分に覚えるように言い聞かせた。


カオルは、ぼくの髪の毛をゆっくりと丁寧になでている。

(あれは、ぼくのせいじゃないし…カオルもぼくを責めない。

だけど、こんなずっと不機嫌でいられたら迷惑だ。

それと…カオルから感じる魔力、それが日に日に強くなっていってる気がする…)

なでる手にはラメのようなキラキラしたものが出ていた。

キラキラしたものが髪の毛に付いては粉雪のように消えていく。

(またあのくらいの強い光魔法を身体から、発せられたら、ぼくはカオルに近づけなくなる)

カオルが目の前にいるにも関わらず、レイジロウは自分の思考に夢中になっていた。

「レイくん、考えごと?」

カオルは優しい表情だが目が笑っていない。

もっと不機嫌になった感じがして一瞬焦る。

「いや、」

すぐに否定しカオルの次の言葉を待つ。

カオルはレイジロウを探るような瞳で見ている。

「前、俺がいなかったから、あいつに泣きついてしまったって言ってたよね」 

八つ当たりで言ってしまった言葉を復唱され、益々居心地悪くなる。

「うん…」

「何かあったら俺を呼んでね。」

ニコッと微笑んだ。

その表情に少しホッとするはずが、ぼくは何故か落ち着かない胸騒ぎがした。

寂しいと思った。ただそれだけだった。

周りに誰もいないのでついカオルの名前を呼んだ。

「どうしたの?」

聞き覚えのある好きな声だ。

煙の様に現れ、カオルがぼくに抱きついている。

「わあ!何だ!?」

ぼくは驚きカオルを押しのけた。

そしてカオルは地面に押し飛ばされた。

「痛てて、俺だよ。レイくん」

「カオル?本当に?」

レイジロウは恐る恐るカオル近づき、カオルの首元の匂いをかいだ。

「本当だ…カオルだ。」

好きな匂いに嬉しくなり顔が緩む。

「確かめるのにこんなに近づくつもりなの?

おれじゃなくてリキュールってやつにも?」

不機嫌な顔で咎める。

しまった。

「アイツに近づかないでよ」

カオルはイライラした顔で言った。

「近づかないよ。それと何で…」

「レイくんの髪の毛に呪文をかけた」

「何勝手な事してんだ!?」

驚き、声が裏返った。

「だって、レイくんが、俺以外の人に抱きつくから…」

遠回しにレイジロウのせいだと言っている感じがする。

「俺の名前を呼んだらすぐ来るよ」

カオルは無邪気な笑みを浮かべた。

対照的にレイジロウの表情筋はピクピクと引きつっている。

束縛し過ぎだ。

それに全然悪いと思って無いんだろうなあ。

カオルの安心しきった、嬉しそうな顔を見て、レイジロウは諦めたようにため息をついた。

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