第13話火に油を注いだ結果

カオルは柔らかい表情に変化する。

「そうだね。おれがずっと傍にいればよかった…」

怖い

カオルの声は酷く冷たい。

体中、肌が粟立つ。

頬をなでていたカオルの長い指が、レイジロウの唇に触れる。

慣れていない刺激にわずかに身体を震わした。

「レイくん」

大きな水色の瞳と端正な顔がわたしを見ている。

顔を持たれ、口元にそっとキスをされた。

ヒンヤリとした唇が触れる。

ビクッと身体を震わせた。

次に、頬、首元と口を這わせる。

少しでも動いたら首を噛み千切られるんじゃないかと想像した。

怖がっているぼくをカオルは無表情で見ている。

怯えたレイジロウの黒い瞳が、カオルの酷く冷たい水色の瞳と重なった。

一見冷たく見えて、目の奥は怒り燃えているようだった。

「レイくんは、おれのものでしょ?」

ゆっくりと当たり前のように言われた。

カオルの美しい顔が、ぼくが頷くのを待っている。

ぼくは一瞬言葉に詰まった。

「ものとかそう言うんじゃ…」

わたしは微妙な顔で顔を上げた。

ものと言われ内心ムッとしていた。

カオルは優しい顔で微笑んでいる。

だがカオルの目は静かな海のようだ。

恐ろしかった。

その目はぼんやりと曇っていて、ぼくは映っているのか不安になった。

サラッと黒の髪の毛をなでられる。

「レイくんは、おれのものだよ」言い聞かすような響きがあった。

強い圧力。明らかに怒っている。

その事実がぼくをひるませた。


「カオル、のものだから」

ぼくは空気を変えるために言った。 

言葉の最後が上擦って高くなる。

「そうだよね」

優しく微笑む。頭をなでられる。

カオルはゆっくりと、言葉を味わっているかのように答えた。

頬を再び、なでられる。カオルは微笑んでいた。 

「いい子だね」

天使のような綺麗な表情と、怯えたぼくの2つの顔があった。

「カオルはどうなの…?」ぼくは恐る恐る言った。

「もちろん、レイくんのものだよ」

それも当たり前のように言った。

ぼくが複雑な表情をしたのを見て取り、カオルは少し考える素振りをした。

「人と言った方がいい?」そっと優しく聞いた。

ぼくはすぐに頷いた。

カオルは「わかった」と言い、レイジロウの顔を両手で包むように持った。

そしておでこにキスをした。

「ごめんね、ものとか言って。」

言いながら優しく頭をなでられる。

心地よくてレイジロウは猫のように、目を細めた。

それを満足そうにカオルは見ている。

顔を近づけられ、そっと言われた。

「おれはレイくんの人だし、レイくんはおれの人だよ」

最後ら辺ははっきりと発音された。

綺麗な水色の瞳をぼくに向けた。

カオルはぼくの手を握り、次に頬をなでる。

自分のものだと確認しているように見えた。

この状況は落ち着かない…

「ぼくはさっきの人に興味ないし…」

人じゃなくて魔物だが。

脳内の突っ込みを無視して話し続けた。

「ぼくは…カオルしか好きじゃない」

状況を変えたくて、となでる動作をそろそろ止めて欲しくて言った。

カオルのぼくの髪をさわる手が一瞬止まる。

少し驚いたように目を見開いていた。

「カオルしか興味ない。…ホントだよ?」

ぼくはカオルの顔色をうかがいながら言った。

カオルは一瞬、探るような表情でぼくを見ていた。

優しそうな水色の瞳が、不安そうなぼくを強く囚える。

「本当に?」

カオルは少し嬉しそうな表情で言った。

「本当…だよ」

カオルの顔色を伺いながら言った。

信じているのか分からないが、穏やかに微笑んでいる。

水色の瞳がじっとぼくを見ていた。

カオルの口角は綺麗なアーチ形を描いた。

カオルは目を細め、ニコッと笑う。

「おれの機嫌をとるのが上手いね。レイくんは」

さっきよりカオルの雰囲気が柔らかくなった。

そして瞳がゆっくりと光を帯びた。

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