第2話 幼なじみは残念な娘
俺は女の子の言葉を聞いて呆然としてしまう。
「別れる⋯⋯だと⋯⋯」
「ええ⋯⋯その方が2人のために良いと思うの」
何を言ってるんだこの女は。意味がわからない。
「あの日⋯⋯夜の街を2人で歩いたことを忘れないよ」
そう言って女の目から一滴の涙が溢れる。
普通だったら別れるなんてそんなこと言うな! と引き止めるのが正解なんだろうが俺は違う。
「ていうかあんた誰?」
「えっ⁉️ 私よ! あなたの彼女のアリザよ!」
「アリザ?」
全くもって見覚えがない。
なぜ俺は会ったこともない女に振られなくちゃいけないんだ。
「ほら⁉️ 私達1週間前に友達の紹介で⋯⋯」
「1週間前?」
ああ、そういえばリョウの誘いで合コンに行ったっけ。
男と女3対3の飲み会があって、俺達以外のメンツはそれぞれ抜け出してしまったので、仕方なく俺がこの女を家まで送ったんだ。
「私をお姫様抱っこしてくれたじゃない!」
「それはお前が酔い潰れていたからだ!」
「ひ、ひどい⋯⋯私を弄んだのね」
何だこの自意識過剰女は。やっぱり合コンに来るようなやつはクソ女しかいないな。
「1週間全然連絡くれないし⋯⋯少し顔がよくてお金持ってるからって調子に乗って――」
調子に乗っているのはどっちだ。
合コンの帰りに送っただけでカップルになるならこの世界は恋人だらけで少子化問題なんてことはなくなるわ!
俺は頭の中でシステムと念じると目の前に立体的な画像が浮かび上がる。
画像の中にはアイテム、装備、ステータス、フレンド、デュエル、クエスト、ヘルプ、現在の時間と表示されているのでアイテムをタッチする。
そしてさまざまなアイテムが表示されている画面をスクロールしていき、目的の物を選ぶと突然地面に何かが現れる。
「えっ? 何それ?」
女は目の前に見えるものに対して疑問の声を上げる。
「これ? これはバリスタって言うんだ。矢をセットして遠くの物を撃ち抜く武器だよ」
「ま、まさか私を殺す気!」
「まさか。ただこのバリスタの弦をおもいっきり引っ張ってお前のおでこにデコピンしてやるだけだ」
「そんなことされたら死んじゃうわ! 私はか弱い女の子よ!」
「残念だけどこういう時だけ女を武器にするやつは嫌いなんだ」
例えばこれが逆だったらどうする。
酒で酔い潰れた俺をこの女が送ってくれて、もう俺達は恋人同士だと言った日には変態ストーカー野郎として憲兵に捕まるだろう。
しかし! それが女だと話は別だ。もし俺が憲兵に訴えた所で事件になることはない。だから俺は、こういう女を武器にするやつとは断固として戦う。
俺はバリスタの弦を力いっぱい引っ張る。
「ひぃ! やめて!」
女は泣き言を言いながら後退りこの場から逃げようとするが、そうはいかない。
俺は照準を女に合わせ、弦から手を離そうとした瞬間、背後から誰かの気配を感じた。
「あっれ~? あんたこんなとこで何してるの? まさか告白?」
俺は後ろを振り向き確認すると声をかけてきたのは、腐れ縁もとい悪友のサラだった。黒髪ロングで見た目だけはいいが、中身は俺が言うのもなんだけどかなり残念な作りになっており、サラのお母さんが毎回俺に愚痴を言ってくるほどだ。
「た、助けて! 殺される!」
クソ女は俺がサラに気を取られている隙に、走りだし逃げたしてしまった。
「殺される? あんたまた何かやったの?」
「俺はあの勘違い女にこのバリスタの弦でお仕置きをしようとしただけだ」
「いやいや、当たりどころが悪かったら普通に死ぬからそれ。そんなことより今日私飲みたい気分なんだよね。あんたの愚痴も聞いて上げるからいつもの店に行こうよ」
この状況をそんなこと扱いするサラも大概だな。
まあ俺も今のクソ女のせいでストレスが溜まったからちょうどいい。
「わかった行こうぜ!」
こうして俺とサラは一本杉の丘を離れ、酒場へと向かう。
酒場に着くとすぐに店員に席を案内され、まずは最初のいっぱいを注文する。
「じゃあ俺はエールで」
「私はファジーネーブル~」
「え~とエールとファジーネーブルですね。喜んで」
店員はいつものおきまりの掛け声をして俺達の席から離れていく。
ここはアストルムの街の中心街にある酒場たっちゃん。お酒の種類が多いし、鳥の焼き串が安くてうまいので、俺やサラがよく愛用する店である。
「で? あんたさっきの娘と何があったのよ」
サラが酒場のメニューをひろげながら、興味津々に先程の出来事を聞いてくる。
「実は――」
俺は先程のクソ女との合コンやいつのまにか付き合ってた話をする。
「あはは! あんたよかったじゃん。これでこれから年齢イコール彼女いない歴って言わなくて済むじゃん」
「笑い事じゃねえ! こんなのノーカンだノーカン」
確かにサラの言う通り今まで生きてきた18年間で彼女なんてできたことないけど⋯⋯初彼女がこんな結末なんてあんまりだ。
「お待たせしましたぁ⋯⋯エールとファジーネーブルです」
店員さんが注文していた飲み物をテーブルに置いていく。
「では、トウヤの初彼女と1週間で振られたことを祝って⋯⋯かんぱ~い」
「お前絶対楽しんでるだろ」
「あったりまえじゃない。飲みたい時に面白い話題を提供してくれるなんてさすが私の幼なじみね」
そうサラとは家が隣同士ということもあって、産まれてから18年間ずっと一緒にいる関係だ。だからこいつも俺もお互いに遠慮がないこともあって、男友達みたいになっている。
「あんたもさあ、いい加減彼女ができるといいのにね」
「そうは言っても中々良い娘っていないよな」
「それはあんたの理想が高いからじゃない?」
「そんなことはない。飲み会で空いたグラスを片付けて注文を聞いてくれたり、サラダを取り分けてくれるようなピュアな女の子を求めているだけだ」
「けどそういう娘ってあざとくて男を狩人のごとく狙ってると思うわよ」
「それでも何もしないで食べて飲んでる奴よりましだろ」
「まあそうね。自分だけ狙ってる男の隣に行って腕を組んで乳を押し付けてる女よりましね」
「あっ⁉️ あと1つ⋯⋯こういう所に来てエールやワインじゃなくファジーネーブルを頼んで可愛らしいものしか飲めないのアピールをする奴はクソ女の確率が高いからごめんだね」
「ん? それは私にケンカ打ってるのかな?」
サラがドスを聞かした声で俺に睨んでくる。
「すまん。つい本音が」
「なおさら悪いけど」
お互い付き合いが長いから自然と本心で言葉を発してしまう。
「けどそもそもあんたがいうピュアな女の子は合コン何かに来ないと思うけどね」
「まあ確かにそのとおり何だけど万に1つの可能性というやつを信じてだなあ」
「そんなことだからアイテムガチャで大損するのよ」
「ぐっ!」
それを言われると何も言えなくなる。俺はアイテムや武器、防具が出るガチャに嵌まってけっこうな金を注ぎ込んでしまっている。それで母さんやサラに何度怒られたことか⋯⋯。
「でもあんた、年がら年中彼女がほしいって言ってるからそろそろできてもいいんじゃない?」
「年がら年中なんて言ってない。せいぜい2日に1回くらいだ。そういうお前だって年齢イコール彼氏いない歴じゃないか」
俺から見るにサラは容姿はパーフェクトだけど中身がなあ。しかも本人は男を作るより友達と遊ぶ方が楽しいらしいからなおさら彼氏ができない。
ただサラは見た目に騙された男達に何回も告白されそして断ってる。俺と違ってもモテるんだよな。
「別に私は作りたいと思ってないからいいの」
くっ! 持たざる者の気持ちをこいつは全然わかってないな。
「そもそもあんた最近人を好きになったことあるの?」
「う~ん⋯⋯ないな」
「やっぱりね⋯⋯あんたにはドキドキが足りないのよドキドキが! 女の子を見てドキドキしてないでしょ? それじゃあ彼女はおろか好きな人もできないわよ」
「いやいや、ドキドキはしているぞ」
女の子が薄着や水着だったり、エロ本を見た時のドキドキは半端ない。
「言っとくけど今あんたが思ってるエロいドキドキのことじゃないからね」
「な、な、何を言ってるのかな」
くそう! 長年幼なじみをやってると考えることを読まれてしまうからたちが悪い。
「いいわ。私があんたが好きそうな後輩を紹介してあげる」
「別に紹介なんかしなくていいよ」
「いいから私に任せておきなさい。その娘もある意味あんたと同じような考えを持っているから」
俺と同じ考え?
俺の頭の中は少しだけ魔物退治や願いが叶う宝玉のこと、そして大半が女の子のこととエッチなことを考えている俺と同じ⋯⋯だと⋯⋯。
「その娘は相当ビッチなやつだな」
「あんた日頃どんなこと考えているのよ! やっぱり紹介するのやめた」
「軽い冗談だ」
「笑えない冗談はやめてよね。まあいいわ⋯⋯明日13時に噴水広場で待ち合わせね」
「了解」
こうして明日サラの後輩との約束を取り付けて飲み会はお開きとなった。
そして酒場から10分ほど歩いていくとレンガ造りの家がたくさん見える住宅街に到着し、俺とサラの家の前に着く。
「じゃあね⋯⋯明日遅刻するんじゃないわよ」
「大丈夫だ。サラに恥をかかせるようなことはしねえよ」
「どうだか⋯⋯私の後輩を会ってもないのにビッチ扱いしたくせに」
「だからそれは冗談だって」
まあ少なくともサラのことだから変な娘を紹介してくることはないだろう。本当に俺が嫌がることは絶対にしないからなこいつは。
「じゃあな」
俺はサラに背を向けて自宅へと入ろうとすると後ろから声をかけられる。
「明日⋯⋯うまくいくといいわね」
「さあ⋯⋯それはその後輩に会ってみないとわからないからな。それに向こうが俺みたいな恋愛初心者はお断りかもしれない」
いつもだとサラは、あんたが童貞ってこと見破られないといいわねって茶化してきたりするのに今日は何だか様子がおかしい。
「何だ? 心配してくれるのか?」
「そりゃあ⋯⋯あんたがうまく行かないと⋯⋯」
サラが元気なく答える。
普段と違うサラに俺は少しだけ困惑してしまう。
「後輩のエリカに後で何を言われるかわからないからね」
明日会う娘はエリカっていうのか。
「いきなり宿泊施設に連れてかないでよ」
「行くかバカ」
「ということはまさか野外プレイ⁉️ 純情な娘だからさすがにそれはやめてほしいかな」
「死ね」
どうやら俺の思い過ごしか。サラはいつも通り俺が知っている中身が残念な娘だったようだ。
「じゃあ明日楽しみにしててねぇ」
そう言ってサラは自分の家へと入っていった。
「さて俺も家に入るか」
一応明日は午前中リョウと魔物退治の予定だから、今日のうちにサラの後輩のエリカさんと会う服を選んでおこう。
そんなことを考えながら自宅に入ると誰かが俺の方へ床の軋む音が聞こえるほど荒っぽく廊下を駆け出してきた。
「バカ兄貴!」
俺をバカ呼ばわりしてきたのは金髪セミロング、少しアホっぽい顔をしている愚妹のセレナだ。
「何だバカセレナ」
「何よ! 私をバカ呼ばわりしないで! バカって言う方がバカなんだからね」
お前は先に俺をバカ呼ばわりしたことを覚えてないのか。見た目どおりセレナは頭が弱くて学園の成績を下から数えた方が⋯⋯いやハッキリいって1番下だ。
「それで慌ててどうしたんだ?」
このままだと悪口の応酬になってしまいそうなので、俺は大人になってセレナの用件を聞いてみる。
「い、今めっちゃ可愛い娘がリビングにいるんだけど」
「可愛い娘⋯⋯だと⋯⋯」
「なんか大人しめ系の娘っぼいからあたし何を話していいのかわからなくて⋯⋯だから早く兄貴来て!」
それじゃあお前はよくわからない娘を家に上げたのか? と説教したくなったが、今はそんなことよりリビングにいる可愛い娘が気になる。
「わかった」
そして俺はセレナと共にリビングに行くと1人の女の子がソファーに座っており、こちらに気づくと立ち上がり挨拶をしてきた。
「お久しぶりです⋯⋯お兄さん」
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