この交換小説は小説なの?
風羽
ノリで書いてしまった第一話
【もう無理かな? って思う。
何かを伝えたくて
誰かの力になりたくて
書き始めた小説だけれど‥‥‥】
我ながらいけてるんじゃないかな? って思っていた。僕が手塩にかけて書いた小説をあるコンテストに応募してみた。ま、ノミネートはされるだろうなって思っていた。大賞は難関かもしれないけれど、可能性はあるかもなって。結果発表の日をワクワクしながら待っていた。
ノミネート作品発表の日、朝起きてスマホでコンテストのページを開く。まだ発表は無い。気になって、気になって、何回も何回もページを開く。
まだか、まだか。あー、もう仕事に行かなくちゃ。
僕は今、この町の小さな観光牧場でアルバイトをして生活している。羊の世話が主な仕事だ。仕事中はすっかり発表の事は忘れていたけれど、昼休みになって急に思い出した。
スマホを開く。お! 発表済みだ。早く見たいけど、見たくなくて、思わず目を閉じる。ノミネートされてないはずないよな。僕の作品が画面に出てきたら、それを写真にしてフェイスブックで友達に知らせてやろう。ふーと大きく息を吐いて、ワクワクドキドキしながら最初の画面をパッと見る。僕の作品らしき物は目に映らない。一つ一つ上からじっくりと見ていく。
違う、違う、違う。
無い、無い、無い。
早く次の画面を見たい。でも見たくない。たぶん次の画面が最後だろう。
無いはずないよな。ありますように。ありますように。きっとあるはずだ。
思いきってスワイプする。次のページはたったニ作品だった。パッと見て僕の作品ではない事は明らかだった。それでも信じられなくて、丁寧に丁寧にその二作品を見る。スワイプさせて前のページに並んでいる八個の作品をもう一度見る。何度も何度も親指を上下に動かす。
心ここにあらず。
まじか‥‥‥
あんなに頑張って書いたのに、自慢の作品に仕上がったのに、ノミネートの十の作品の中にも入らないのか。がっくしだ。選考委員、どんな人なんだよ。目がないな。僕の作品を落とすなんてどうかしている。ため息が漏れる。
何の感情も無くしてしまったように、スマホの画面を見るでもなく、僕はただただ、親指を上下に動かし続けていた。
小説を書いてコンテストに応募したのは三回目だった。今度こそはって思っていたのに。ショックは大きかった。ノミネートもされないなんて、厳しすぎる世界だ。落ち込んではいたけれど、ちょうどアルバイトが忙しい時期だったら救われた。羊と戯れているとその時は何もかも忘れられる。僕がどんな心の状態の時でも羊達はお構いなしにいつも通りにマイペースだ。
何日かして、僕はウェブ上での小説投稿サイトの事を知った。自由に投稿出来て、色んな人が投稿している小説を自由に読む事が出来る。そんな投稿サイトがいくつかあって、それを利用している人の多さに驚いた。小説を書いてる人、読んでる人がこんなにいるのか? 僕の作品もここに入れたら読んでくれる人が少しはいるのかな? 本という形に出来たら最高だけれど、せっかく書いた作品が誰の目にも留まる事なく消えていくより、少しでも読んでもらえたら嬉しいな。そう思った。
で、コンテストに落選した小説をそのまま入れるのはシャクだから、それを軸にもっと面白い物に改稿して投稿してみることにしたんだ。小説投稿サイトを色々見て、一番楽しめそうな「カクヨム」っていうサイトにログインしてみた。
もともとあった原稿を作り変えながら、少しずつ投稿していくのは楽しかった。観覧数は一目で分かり、ハートや星が一つでも着くと嬉しくて、何回もその着信履歴を見てしまう。
投稿する事と同時に、投稿されている作品も少しずつ見るようになった。あまりにも作品数が多いから、何を見たらいいか迷いながらも、ランキング上位の物とか、興味あるタグで検索をかけたりしてみた。大抵は最初のページを見てスルーしていたけれど、中には続きを読みたくなるような作品もある。
僕の作品は完結したものの、思うように観覧数は伸びない。星が千単位の作品とかって何? って思う。だからって僕が読みたくなる作品でも無いのだけれど。
そんなある日、僕を夢中にさせてくれる小説に出会った。まさか「カクヨム」でこんな素敵な小説に出会えるなんて思ってもみなかった。
その人の作品は美しい。まるで僕自身がその世界に入ってしまったような気分にさせてくれる。単調な日常から解き放たれるひと時を僕は毎日楽しんだ。
風景も心情も、何でこんな風に描写出来るのだろう? 綺麗事だけては無いこの世界。美しい物と一緒に、悲しみや苦しみや痛みも痛烈に感じる。けれど、マイナスの感情や受け入れ難い事にも登場人物と一緒になって立ち向かえる。ハラハラドキドキしながら、その先を読みたくなる。
作者はいったい何者なんだろう?
その作者さんは「そよ
掲載されている香さんの作品は全て読んだ。僕はこんな作品に出会えて嬉しかった。
と同時に、僕にはもう無理かな? って思ってしまった。
何かを伝えたくて
誰かの力になりたくて
書き始めた小説
だけど、香さんの作品を読んでしまったら、僕の作品なんて捨ててしまいたくなった。僕の作品を読む時間があるなら、どうか香さんの作品を読んで下さい。そんな気持ちになってしまった。こんな風に書ける人が書けばいいんだって思ってしまった。
香さんには熱烈なファンが何人かいるみたいだ。一話毎にハートマークやコメントが何件も入っていて、どの作品にも沢山の星やレビューが入っている。ほぼ全ての話にコメントを入れてる人が何人もいる。そりゃそうだよなって思う。僕だって本当は星やハート、コメントを沢山入れたい。でも僕はそんな素直じゃないんだ。
こんな小説を書ける人に嫉妬心を抱いてしまう。そして素直にハートや星、コメントを入れる事が出来る人達にも嫉妬心を抱いてしまう。僕は素直に香さんの小説を讃えられない自分が嫌になる。
だけど、香さんの作品を読んで僕と同じような気持ちの人は多いんじゃないかな。だって、星が千単位で付いている作品だってあるのに、香さんの作品は百に満たない物ばかりなんだから。付いてる星の数は充分多いと思うけど、千単位で星が付いてる作品より香さんの作品の方が断然僕は好きだ。
小説は自由だ。ある日、僕は夢のような物語を作ってみたいと考えたんだ。
僕が今、書いている文を第一話として投稿する。すると、たまたま僕の作品を読んでしまった香さんが、僕の第一話に繋がるような物語を作って第一話を投稿するんだ。それを読んで僕は第二話を投稿する。僕が自分視点の話と香さん視点(僕の創造)の話とを、一話毎に切り替えて物語を作っていく。交換日記みたいな交換小説だ。
これは楽しそうだな。香さんは僕の想像上の人物だから、誰にも迷惑かける事はないと思うし。それに、僕の投稿なんてそんなに読まれるわけじゃないから、自分が楽しんだら勝ちだと思った。
僕はそんな物語を作る事に何かワクワクしてきた。物語の進む方向や結末はまだ考えていないけれど、僕は無責任に、とりあえずこの第一話を投稿した。第二話は香さん視点の話だ。どんな風に書こうかな? 何かワクワクする気持ちを抑えきれなくて、ノリでポンと投稿ボタンを押してしまった。
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