20 デュケス領邦連邦の一つダズマン王国
ここはデュケス領邦連邦の一つダズマン王国。ちなみにデュケス領邦連邦と言うのは中小領邦が集まって連合国家を形成していると言う体ではあるが連邦と呼べるほどには国体は一致していない。200年ほど前に断絶したデュケス帝国の領土であったと言う以外の共通点をほとんど持たない国々の集まりである。飾りだけの祭祀を行う共通の
その中の一つダズマン王国は、連邦南部に位置する小王国でエルフの森に接している新興国である。最新のゴーレム技術で未開の南方に進出し、ここ数十年で急激に大きくなった王国である。旧来、ダズマン伯爵領呼んでいたが、国の拡大に伴い、ダズマン公国、ダズマン君主国、ダズマン王国と国の名乗りを変えていったのである。これらはほとんど先代の国主カルス一世大王手によるものである。先代の国主の時代はまだエルブン辺境領属ダズマン伯領だったので本来ダズマン伯カルス(カルス・エンヌ・ダズマン・エンヌ・エルブン)と呼ぶべきなのだが今の国王カルス二世の命によりカルス一世大王と呼ばれているのである。
「さて、大臣習。集まって貰ったのは言うまでもない。新型ゴーレム投入よる奇襲作戦の可否である」
そのダズマン王国では緊急の閣議が行われていた。一番最初に金髪巨漢が手を上げる。巨漢と言ってもがたいが良いと言うより腹周りがだらしなくたるんでいるタイプの巨漢だ。大軍師デュクシ・ルダスである。ちなみに大軍師と言うのは自称ではなくダズマン王国の役職である。カルス二世は領土拡大の為の戦略立案に大軍師と言う役職を作ったのである。王国きっての戦略の天才(自称)デュクシがその地位に就いていた。この大軍師と言う役職は、軍所属かつ大臣級職位と位置づけされており閣議への出席権を持っていた。軍務大臣の下の大将軍の下に大臣級の職を置くと言う意味不明なこの人事には反対が多かったが現国王が強引に人事を敢行したのだ。
「国王陛下は大規模な領土拡大を望んで居られる。先の大王よりも大幅な戦果を。近くの小領邦を吸収するより、アルム王国南部を征服する方が効率が良かろう」
タンス軍務大臣言う。タンス軍務大臣は主戦派と呼ばれる派閥の筆頭に位置する。国の繁栄は領土を拡大する事にあると信じている派閥の筆頭である。
「……エルフの森を超えてアルム王国に侵入する作戦ですか?成功の可否はともかくその後、領土の維持はできるんですか?そもそも補給は可能なのですか?」
ルドル土木大臣が言う。ルドル土木大臣は開拓派と呼ばれる派閥の筆頭だ。開拓派は国の拡大より、大王の獲得した領土の開拓を先行すべきだと主張する派閥である。
「その補給を考えるのはお主らの仕事であろう。それともお主はその能力が無いと申す気か?」
「それは考えますけど、この作戦は無茶過ぎると申しているのですよ。その間ゴブリン退治要員をどうするのでしょうか?」
土木大臣は、第二次大戦末期の何とか口みたいな作戦の様に感じた。無論土木大臣が、地球の第二次大戦なるものを知っている訳がないが歴史の書籍に出てくる似たような古代の戦争を思い返している。
「それに関しては問題無い。出撃させるのは機動特化型の最新鋭ゴーレム七機。まだどこの軍団にも属していない言わば余剰戦力。その補助に千人長を一人つける。それで十分だ。投入するのは国の余剰戦力だけです。治安は維持されたまま領土だけが増えます」
大軍師が自慢げに説明する。
「しかし、たった七機のゴーレムでエルマール辺境伯領に侵攻できるのか?」
「はい、これがエルマール辺境伯領の戦力配置図です」
大軍師は大きな羊皮紙を広げる。それは国家機密の情報が詳細に書かれている地図だ。
「ゴーレム保有数の少ないアルム王国のゴーレム配置は北部に寄っており、南部はほぼ居ません。特にエルマール辺境伯南部のゴーレム保有数は0。配置されている兵はほとんどゴブリン狩りに特化した弱兵の集まりです。エルマール辺境伯の軍隊は常時3000を南部に派遣していますが、どこから現れるか分からないゴブリンに対処する為に森に沿うようにバラバラに配置されています。最悪のケースでもなら百人隊2-3ぐらいしか即応できないでしょう。そこに七機のゴーレムと千人隊を直撃させます。そこからはほぼ無人の荒野を刈り取る様なものです。南部のこの中央集積所さえ陥落させれば、こちらの勝ちです。南部の兵隊の食糧・兵器の補給拠点はこの集積所に集中してるので、拠点を落とせば継戦能力はそがれ、士気も大幅に下がるでしょう。ゴーレムと互せる翼竜従兵も北部に集中しており、奇襲後、速やかに占領すれば翼竜の戦力は無効化できます。それ以前に最新鋭ゴーレムは翼竜の機動力に劣らぬ機動力があり、攻撃力は5m級以上あります。長時間の飛行で疲労する翼竜に比べて疲れ知らずのゴーレムの方が絶対的有利を保つことが可能です。一度拠点を抑えてしまえばエルマール辺境伯が残った戦力で集積所を取り返すのはほぼ不可能でしょう。しかもエルマール辺境伯の北部の守備は傭兵頼みですから奇襲時は傭兵の調達は間に合わないでしょう」
エルマール辺境伯はゴブリン駆除の為に南部に常備兵を保有しているが交易が中心の北部では軍を動かす必要性がない。そのため、エルマール辺境伯の北部もその周辺にある国も必要な時だけ傭兵を雇う国が多い。常備兵を置くにはコストが掛かりすぎるのだ。常備兵は街道の維持に必要な兵ぐらいだ。盗賊・山賊対策であり、戦争には投入されない戦力である。
「それだけ詳細な情報をよく収集できたな?これなら辺境伯領だけなく首都まで狙えるかもしれんな。アルム王国を併合したダズマン王国、いやダズマン帝国か……」
楽観的観測だと抗議を挙げる開拓派大臣達を制して軍務大臣が前のめりで言う。
「浸透工作員が良い仕事をしてくれました」
大軍師がその気はさらさら無いが謙遜しながら言う。こういう時の社交辞令でしかない。大軍師は全能感に酔いしれている最中だった。
「しかし、北部諸侯はどうするのですか?この隙に我が国を狙ってくるかもしれませんぞ」
開拓派の国務大臣が抗弁する。
「次期上級王選出の為、七選候が睨み合っている状態で、ゴブリンの巣に突撃する蛮勇な国が北部にあると思いますか?」
大軍師が言う。七選候と言うのは上級王選出権を持った七人の領主の事である。神聖ローマ帝国の選帝侯と似たようなものだと考えて良いだろう。ちなみに七選候は概ねダンジュ国王、バイエ国王、ユエンヌ大公、フェルツ公爵、ムゼル公爵、シュル大司教、ヴェス=ワーセ大司教の七人と定められている。ここに教会の大司教が二人入って居るのはデュケス領邦連邦に於ける教会の影響力の大きさを物語っている。もっともこれらの世俗大司教は教会の本拠地であるミダス聖王国の命に服さないため、仲は険悪である。
上級王は既に形式上の存在とは言え、欲に溺れた諸侯の名誉欲を十分満たす職であるし、既得権益がまだ存在する。その利権を狙って多額の金が動くのだ。そのため上級王選出は、七選侯にとっては稼ぎ時なのである。ゴブリンだらけの南部諸侯に手出しする暇など無いと言う大軍師の言葉は間違いでは無いだろう。
「もう議論を続けても無駄だと思います。宰相ご決断を」
軍務大臣がこれ以上の議論は不要とばかりに閣議の上座で居眠りを続けている宰相に語りかける。この年老いた宰相であるが前王の時代から30年以上にわたり宰相を続けており名宰相と名高い。しかし最近は高齢により、昼間の政務中に居眠りをしていたり、政務の内容を忘れたりする事が多くなっている。軍務大臣は今の宰相は単なる傀儡に過ぎないと思っている。
「……」
老宰相が無言で首を縦に振る。土木大臣以下開拓派は首を横に振る……「この国も現国王になってからすっかり駄目に……」
「土木大臣、その言葉は不敬罪にあたろう。……今はそれどころではないのでは聞き流しておいてやろう。大軍師殿、ただちに陛下に上奏しに行くぞ」
軍務大臣は笑みをたたえながら土木大臣の耳元でささやく。そもそもこの計画は大軍師と現国王が共同で計画したもので今日の閣議は単なるアリバイでしか無いのだ。そして大軍師の真の目的はエルフの森の遺跡の方だ。エルマール辺境伯領南部を手に入ればエルフの森全部が手に入る。そうしたところで遺跡に大捜索舞台を送り込む。伝承では太古のアーティファクトが眠っていると言う遺跡だ。これを手に入れれば世界を手に入れる事も夢でではないと大軍師デュクシは妄想に耽った。
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