ハッピーエンドは似合わない
@shiawaseninaritai
赤い糸の先
出会いは偶然だった。
なんて小説の始まりのような言葉が似合うような出会いではなかった
彼氏に浮気された寂しさから始めたマッチングアプリ
浮気された自分は不幸な女、浮気相手は汚い女、なんて言いながら色々な人と話をした
年も近く、趣味が同じ彼と仲良くなるのに時間はかからなかった。
普通に出会った友達のように一緒にご飯に行き、ライブに行き、デートスポットを2人で回ってはお互いに恋人がいないことを弄っては嘆いた。
気づけばお互いの1番仲の良い異性の友達となった
たまに寂しさを埋めるかのようにお互いの体を求め合った。"恋人ごっこ"なんて言葉が似合うような日々だった。
わたしの心が奪われるまでも時間は掛からなかった
次こそ告白しよう、フラれても大丈夫、彼と出会う前の生活に戻るだけ。なんて言い聞かせながら勇気が出ず告白できないまま時間だけが過ぎて行った。
そんな平穏な日々が続くと思っていた
「彼女できたんだ。笑」
そんなことを言われるまでは。
それはもう絶望だった。自分は世界で一番不幸な女とまで思った。泣いて泣いて、どれだけ泣いても涙は枯れないことを知った
それでも時間は巡る。何事もなかったかのような顔を無理して作りながら日常生活を営むような日々が続いた
いくつか季節が巡り、無理せずに生活を営めるようになった頃だった
彼女ができた、なんて言われたからと簡単に縁が切れるような関係性ではなかった
体を重ねることはなくなっても定期的に連絡を取り合い、ご飯に行くような関係性が続いたある日のこと、スマートフォンがメッセージの受信を知らせた
「久しぶり元気?またご飯でも行こうよ笑」
「久しぶり〜!ご飯行きたい行こうよ。いつ空いてる?」
「急だけど明日は?こんなご時世だし俺の家で宅飲みとかどうよ」
「わたしは大丈夫だけど、彼女さんに怒られるよ」
「俺とお前の仲なんだし大丈夫だよ笑 じゃあまた明日!」
大きなため息が出た。俺とお前の仲とはどんな仲のことを指しているのだろう。
それと同時に彼の家に初めて入れることに喜びを感じている自分にも嫌気がさした
明日で終わりにしよう、漠然とそんなことを思いながら、この胸の高鳴りは1番仲の良い男友達に久しぶり会える嬉しさからと言い聞かせた
次の日、わたしを選ばなかったことを後悔しますようにと願いを込めて、とびっきりのお洒落をして、駅前のスーパーでお酒とおつまみを買い込んで彼の家へ向かった
綺麗に片付いたお洒落なワンルーム
どのタイミングで別れを切り出そうか、そもそも別れという表現で合っているのだろうか、なんて考えながら、お互いに近状報告をしつつお酒は進んだ
時折幸せそうに彼女のことを話す彼を茶化しながらも時間は流れた
時計の針が12時を指す頃。言うなら今しかないと決意を固めた頃だった。
「ねえ」
「ん?」
返事と同時に降ってくる触れるだけのキス
時が止まったかと思った
「お前俺のことずっと好きだもんな、俺もだよ」
なんて呪いのような言葉なんだろう
どうしてわたしが別れを選ぶことを分かってるかのようなタイミングでキスをするのだろう
わたしにキスした口で彼女に愛の言葉を囁き、同じようにキスして体を重ねるのだろうか
そんなことを想像しては寒気がした。それでも嫌いにはなれなかった
わたしは当たり前のようにあなたと外で手を繋いでお揃いの物を身につけて、将来の話をするような関係性を望んでいた。大好きだった。
友達という関係性を利用しながら仲良くご飯を食べ、気持ちを押し殺すような関係はもう沢山だと思い別れを切り出そうと思った。思ったはずだった
触れるだけのキスも、ベクトルの違う方向を向いた好きも嬉しいと思ってしまった。
幸せと錯覚してしまった。何よりも不幸な出来事と分かっているのに
彼の赤い糸の先には別の女の人がいる、ただそれだけだった。わたしと彼を結ぶ糸は赤にはなれないような、たとえばオレンジ色の糸だったんだろう。それでもいいと思ってしまった。それでも縋ってしまった。
この恋にハッピーエンドなんて訪れる訳がなかった。
かつて汚い女と軽蔑した"浮気相手"に自分がなってしまったのだから。それでもいいと思ってしまったから。
「じゃあ、またね」
なんて言って彼の部屋を出た。
さようなら ではなく、またね を選んだ意味は自分が1番分かっていた。
いつか彼とわたしを繋ぐ糸が赤く染まる事を信じて。
Fin
ハッピーエンドは似合わない @shiawaseninaritai
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