第17話 N簡易裁判所公判3 目撃者尋問⑤
K弁護人は話を腹筋台に戻して、尋問を続ける。
「鏡越しで見ていた時というのはフロントからですよね?」
「はい」
「フロントから鏡までの間は、12メートル30センチくらいだと?」
「はい」
「鏡越しでまず、原告女性が腹筋台で腹筋をしている様子を確認されたんですか?」
「まず後輩が確認して、その後、自分も確認しました」
「その後輩はフロントの方まで歩いたんですか?」
「フロントの後輩です」
「つまりフロントには貴女だけでなく後輩も隣に居たということですね?」
「はい、そうです」
「まず後輩が鏡越しで、原告女性が腹筋台にいる様子を確認したと?」
「原告女性が被告人に腹筋をさせられていて身体を触られているのをどうしたら良いか私に相談してきました」
「で、相談を受けて、貴女が見ても原告女性は腹筋台にいて、被告人が彼女の肩や背中を触っていたということですか?」
「はい」
「その時間、肩や背中を触ったりとかしている時間は何秒くらいでしたか?」
「5分とかですね。話しながら触っていましたが、2~3秒とかでなく。体感時間ですが。何度も腹筋をさせていたので」
「その間はずっと目撃されていたのですか?」
「はい」
「今回、腹筋や前屈をしていた場所ですが、これってフロアというのですか?」
「マシンジムエリア…」
「そのマシンジムエリアには、当時、被告人と原告女性以外には人はいなかったんですか?」
「壁を隔てて他の会員さんがいましたが、その場所には2人しかいませんでした」
「貴女が鏡越しに目撃している時に、他の会員さんがジムの方にやって来たりすることはなかったですか?」
「前を通ることはあったかもしれないですが、ずっと遮られることはなかったです」
「例えば、チェックインの手続きをするとかはなかったですか?」
「それは他のスタッフにさせていました」
「貴女は注視することに専念していたということですか?」
「はい」
「貴女は5分程度、フロントで鏡越しに注視されていたんですが、実際に2人の近くに移動しようと思って移動されたんですよね?」
「はい」
「フロントから移動しようと思ったきっかけは何ですか?」
「お尻を触ったのがきっかけですね」
「先ほど言われた通り、それは行きすぎじゃないかと思われたわけですか?」
「はい」
「で、そこから2人を引き離したいと? フロントから2人の近くに移動する。何をしに行こうと思ったんですか?」
「原告女性をその場から離してあげたいと思って近づきました」
「その時には、2人を離す手段というのは考えていたんですか?」
「はい、他のスタッフと。どう声を掛けたらいいのか? 会員さんとスタッフということで、電話が掛かってきたというのが自然かなと思ったので」
「会員としての配慮もされたということですか?」
「はい」
「鏡越しで見た時のお話ですが、12メートル30センチフロントから離れている状況では、今ご覧になられた写真からすると小さいものじゃないかと思うんですが、被告人の細かい動きまで見えたんですか?」
「見えました。鏡がすごく大きくて。写真だと小さく見えるんですが、実際ははっきり見えます」
続いて、Ka検察官が尋問に立った。
写真8,9を示しながら、
「この写真の中に鏡は写っていますか?」
「はい」
「どれになりますか?」
「これ」
「今証人は写真9のうち、証人の頭の部分から少し左に移動した辺りを指さしていましたが、そこに鏡があるのですね?」
「はい」
続いて、Na裁判官が尋問に立った。
「鏡越しに見ていて、それでカウンターを離れて近づいて行きましたね?」
「はい」
「それは何か思うところがあったから近づいて行ったんですか?」
「はい、そうです。お尻を触るという行動がどうしても許せなくて」
「何とかしなきゃと」
「はい」
神野にはこの2人の尋問の意味がどうにも解せない。こんな愚問に何の意味があるというのか?
写真だけでは、現場の様子はわからない。まして、鏡との位置関係など分かるはずがない。第一、2人の立ってる位置が特定されていない。
神野の不信感は増すばかり。
カウンターの位置と奈穂が2人に近づいたルートを知っていれば、神野はきっとこんな疑問を持ったであろう。
カウンターから近付く時、鏡に写る像を奈穂が見ていないことを何故誰も尋問しないのか?
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