第13話 N簡易裁判所公判3 目撃者尋問①
何だか少しモヤっとした感じで第2回公判は閉廷した。
閉廷後、神野は近くの会議室でK弁護人と少し会話を持った。
「裁判て、だいたいこんな感じなんですか?」
「まあ、そうです」
「ふうん……」
「来月は目撃者証言です。何といっても前屈のところです。目撃者が原告と違った証言をしてくれればいいんですが……」
「口裏を合わせるでしょうね……」
「証言が食い違っていれば、目撃者だけでなく、原告の証言も信憑性が疑わしくなります」
「そうですね」
そうはいっても、神野には頭の良い奈穂がそんなミスを犯すとはとても思えなかった。
後日、X法律事務所、六甲連山の眺めの良い部屋。
前回の第2回公判の原告証言で、神野は裕子の証言を聞きながら事実に反する応えにはメモを取っていた。そのメモをパソコンにまとめたものをプリントして持参していた。K弁護人にそれを渡したが、「一応、貰っておきます」と意外とそっけない。
後日の公判で役に立つ資料だと思い、『原告の偽証』と『神野による真実』とを対にして表にまとめたのだがK弁護人は意外にも、さほど興味をしめさなかった。神野は少々拍子抜け。
第3回公判開廷。
Ka検察官の目撃者証言報告により、野々宮奈穂が入廷してきた。大友裕子同様、真実証言の誓いのあと早速、I検察官の尋問が始まった。
「被告人がKスポーツジムのインストラクターの女性に迷惑行為をしたという件で審理が行われていることは聞いてますね?」
「はい」
「貴女と原告女性とはどのような関係になりますか?」
「同僚です」
「同じスポーツジムの従業員と同僚?」
「はい」
(同僚には違いないが、同じスポーツジムの事務員兼受付係とフロアー担当と言うべきだろうな)
「その日、どんなことがありましたか?」
「まず後輩が、原告女性と被告人を鏡越しに、被告人が原告女性に腹筋させるところを見ていて、身体を触っているのを確認したが、どうしたらいいのかわからないので私に訊いてきたんです。その後、鏡越しで状況を確認して、その後腹筋台から移動させて前屈をさせているのを見ました」
「原告女性に腹筋をさせていたのは誰ですか?」
「被告人です」
「その時、被告人は原告女性に何かしていましたか?」
「肩を触ったり背中を触ったりしていました」
「原告女性が前屈をしているときには被告人は何か原告女性にしていましたか?」
「原告女性の左のお尻を右手で触っていました」
「貴女はそのような状況を実際に見ていたんでしょうか?」
「鏡越しに見ていまして、実際目の前でも見ました」
「鏡越しに見たのと直接見たのがあるんですね?」
「はい」
「詳しくお訊きします。原告女性が腹筋運動をしているときのことについてですが」
「はい」
「Kスポーツジムには腹筋台が置かれていたんですね?」
「はい」
「原告女性がその腹筋台に寝そべって腹筋運動をしていたんですか?」
「はい」
「そのとき、被告人はどのように原告女性を触ったんでしょうか?」
「原告女性の周りをうろうろしながら、右手の掌のここで触ってました」
神野は疑問を感じた。『原告女性の周りをうろうろしながら…』だって?
それは即ち、腹筋台の周りをうろうろすることになる。それでどうやって原告の背中や肩を触れるというのか?
前回の原告証言の『内無双』よりも難しい技だ。
「右の掌の中央部分を示していましたが、指ではなく掌で背中と肩を触っていたんですね?」
「はい」
「その時、原告女性はどんな服を着ていましたか?」
「指定のユニフォームです」
「指定というのは、Kスポーツジム指定の?」
「はい」
「ということは、被告人は背中や肩を服越しに触っていたということですか?」
「はい、そうなります」
「触っていたのは、右手ということですか?」
「はい」
「先ほど後輩がと言われてましたが、貴女はその様子をいつから見ていたんでしょうか?」
「腹筋をしているときからです」
「もともと後輩が最初から見ていた、ということですか?」
「はい、そうです」
「後輩は何と言って原告女性と被告人のことを、貴女に教えにきたんでしょうか?」
「原告女性が腹筋をしていて、被告人が肩を触ったりしているのを見て状況がおかしいのでどうしたらいいか訊いてきました」
神野は、『後輩』は奈穂の考えた架空人物だと思った。もしもこのあと、K弁護人がそのあたりを追求したらどう出るか?
大勢居たので特定できないとごまかすか? それとも、予め誰かに偽証を頼んでおいてるか?
奈穂の偽証はまだまだ続く。
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