第8話 N簡易裁判所公判1 起訴事実の確認
9月になり初公判を迎えた。
神野は10時30分、X法律事務所を訪れた。K弁護人からその日の予定の説明を聞いてみた。検察側と弁護側がそれぞれの主張をするだけで10分ほどで終わるとのことだった。
警察署での供述書は結構重要な証拠になるという嫌な話も聞かされ、サイン等をしたことを悔やんだ。
N簡易裁判所までは徒歩10分ほどだ。前の通りは何度も通ったことはある。N警察署に劣らず古くて汚いが、建物を囲む樹木があるだけ少しは雰囲気はある。
到着後少し時間があったので、法廷の近くの休憩室で時間をつぶしてから一緒に入廷した。
既に自分たち以外全員揃っており、東側に裁判官、そのすぐ前に書記官、北側に検察官が2名着席していた。裁判官は70代と思われるやや痩せて貧弱なご老体だ。ちょっと見、俳優の下元勉に似ている。
K弁護人が南側に着き、神野が西側の被告席に着いた。
全員揃ったところで、すぐに開廷となった。冒頭で裁判官から神野に対して被告人本人に間違いないかと人定質問があり、彼は姓名と生年月日を言った。
続いて、起訴状の朗読後、起訴事実確認質問があり、彼は心当たりはあるが事実ではないときっぱり否定した。
その後、検察側、弁護人側がそれぞれお決まりの主張をして閉廷となった。
数週間後、神野はS法律事務所を訪れていた。
公判は2回目から本格的に始まるが、その流れについてK弁護人から説明を聞くためである。
「2回目公判では検察官から原告の証人尋問、3回目は目撃者の証人尋問が行われます。」
「私は口を挿めますか?」
「いえ、ここは聞くだけです」
「じゃあ、ストレス溜まりますね」
「溜まります」
神野は思わず苦笑い……
「神野さんは先日とおなじ位置ですが、ドアーに近い場所に証人が入廷し、仕切り版で被告人から見えないようにして尋問に応じます」
「……」
「姿が見えるとプレッシャーになるので」
「……」
「4回目公判で神野さんが供述できます。私が質問します」
「やっと、ストレスが吐き出せますね」
「そうです」
「ふーん……」
「5回目に検察側の論告、求刑が行われ、その後で弁護人の弁論。最後に被告人の言い分で閉廷となります。その数週間後、判決がくだります」
神野は静かにうなずいた後、
「私が自分の友人を法廷に招待してはいけませんか?」
「かまわないけど……、裁判官の印象が悪くなりますね」
「そうなんですか……」
神野には傍聴して欲しいと思っている知人が一人いた。彼はKスポーツジムのトレーニング仲間である。他にもいるのはいるのだが、みんな仕事を持っている。
「さて……」
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