第5話 N警察署での取り調べ その2
「来月、もう一度電話が行きます。それで終わりです」という結びで、神野はN警察署を一先ず離れた。
年末の忘れかけた頃に電話で呼び出しがあった。また前月と同じ狭苦しい部屋に通された。
今度の神野の担当は署内勤務の30代半ばの警察官だった。前回と同じようなことばかり訊かれていい加減うんざり。違うところと言えば、前回の交番警官は割合、品位はまともだったが、今回のは少々下品な奴だ。
1~2時間と言われていたが3時間近くかかってやっと供述書の印刷に入った。
パソコンから印刷したのを見せられたが、文章も中学生並みで誤字脱字もやたら多い。
(パトカーの運転以外に何ができるというのか? 形式通りの供述書にサインさせるだけだろうから、このレベルで十分なんだろう)
神野はそう思った。
3回ほど訂正・印刷の繰り返しでやっと誤字脱字はなくなった。文章は気に入らなかったが、あとで訂正できるのなら取り敢えずこれでいい。
「署に来てもらうのはこれが最後」だと聞いていたので、さっさとサイン、指印、捺印をした。
(もう2度と来ることはないだろう。不快な思いをさせられたが、人生経験にはなった)
そう思いながら、神野は帰路に就いた。
帰宅してから、神野はこの一連の出来事を思い起してみる。
これはKスポーツジムの仕組んだことではないだろうか?
Kスポーツジムは自分が思っていた以上に自分に敵意を抱いているのではないだろうか?
神野はKスポーツジムと自分との過去を整理してみた。
1) チェックイン後、ジョギングに外出した。これをとがめた受付担当とやり
あったことがあった。
2) 消費税アップに伴う違法な請求をしてきたので、完全拒否している。
3) プールに汚物が浮遊していたことをKスポーツジムの内外を問わず口外して
いる。
4) 会費のたびたびの値上げに対し、サービスの低下を怒りのまま口外してい
る。
5) かって、本店の女子アルバイターとは何度かトレーニング以外で盛り上
がったことがある。
こんな面倒な会員、何とか辞めさせられないか?
店長と受付の中年のベテラン女子社員とでタッグを組み、緊密な連絡を取り合っていたのでは?
それなら、彼らはまんまと成功したと満足しているであろう。
実際には、神野は早くから年内退会を決めていたが、そのことを彼らは知らない。
野々宮奈穂の計略など全く気付かぬ神野はてっきりKスポーツジムの仕組んだことに違いないと思い始めていた。
年が明け、2月になった。
6年間務めた職場を定年退職したばかりの神野は、のんびりいつもの森林公園をジョギングしていた。そこにN警察署から突然の電話が入った。何だか、嫌な予感。
予感は的中で、年末に担当した下品な警察官からで、写真を撮るのでもう一度来て欲しいとのことだった。
数日後、神野は三たびN警察署を訪れた。
今度は取調室とは別の作業場みたいな場所で検証写真を撮られた。さらに、時々交番で見かけるような指名手配用のようなのも撮られた。
この時、重量挙げの選手みたいな男女2人がそれぞれ、「お尻触っちゃいけませんよ」と静かに囁いたのが気にいらない。彼らもまた、頭から彼を犯罪者だと決めてかかっている。
この後、Kスポーツジムにつれて行かれ、玄関でもう一枚撮られた。
再び、N警察署に戻り身長と本人希望によるDNA検査をしてすべて終了。
帰り際、神野は例の下品な警察官の一言が気にかかった。
「神野さん、早めに弁護士決めておいたほうがいいですよ」
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