19本目 呼び方

「ねえねえお兄ちゃん」

「ん?」

「今川焼になりたいって思ったことあるー?」

「なに?」

「だから今川焼になりたいと思ったことあるかって聞いてんの!!」

「どのタイミングでキレてんだよ...」

「いいから答えてよ」

「無いって。逆にあんの?今川焼になりたいときが」

「えーじゃあじゃあー」

「スルーかよ」

「大判焼きは?」

「大判焼きにもなりたくない!」

「じゃあオ――」

「おやきにも回転焼きにもなりたくなーい!」

「回転焼きって何かなー?じゃあじゃあ」

「もう止めて」

「御座候はー?」

「止めてくれっ......」

「太鼓焼きはー?きんつばはー?あじまんはー?」

「止めろおおおお!!!!」




「はっ......!」


 高度の下がった昼過ぎの太陽が室内を照らしている。蒼白な顔で天井を見つめる男は、昼寝で寝ぼけた頭を数秒かけて解きほぐし、早かった鼓動が落ち着かせると、やがて状況を理解した。


「意味不明にも限度があるだろ......」


 コンコンッ

 ガチャ


「お兄ちゃんおやつあるよー」


 少女は菓子を乗せた皿を片手に部屋へと入ってくる。


「お昼寝?」

「うぅ......ありがとう、そこ置いといて」

「今日のおやつは二重焼きだよー」

「......!」

「いや、黄金焼きだっけ?それともじまん焼きだったかな?甘太郎焼きかな?」

「うわあああああああああああああ!!!!!!」

 バタン!

「お兄ちゃん!?」



 おしまい


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