11本目 深夜徘徊

 私は暇なときによく散歩をする。だが、それも朝や昼間ではなく、決まって日が沈んでから行くことにしている。特にド深夜に出かけるのが好きで、携帯だけを持ってコンビニで飲み物とつまみを買った後、あてもなく近所を歩いて帰るだけ。人とすれ違うこともほとんどなく、それこそ車かコンビニの店員くらいしか周りにはいないように感じられる。


 あるとき、いつものごとく深夜徘徊をしていると、何やら自分以外の気配、もといこちらへの視線を感じた。


 治安良好な日本の一地方都市といっても、全くの無警戒というのもよろしくない。牽制の意味も込めて後ろを振り返ると、誠に残念なことに目線が合ってしまった。


 すると相手は目を逸らすことなくじっとこちらを向いて動かない。だが、まだ距離はある。急に逃げ出して相手を刺激するのも得策とは思えない。


 「Calm down...」と英語が話せるわけでもないのに格好つけながら、さっき買った缶飲料を一口飲み、家に向かって歩き始める。幸いここをまっすぐ行けば、5分とかからず家にたどり着ける位置関係だ。


 しかしそのまま帰ればいいものを、一度認識してしまった以上、どうしても背後が気になってしまって仕方ない。もう50mほど歩いたところで振り返ると、先ほどより少し間隔を詰めてそこにいた。「深夜徘徊」は「深夜のだるまさんが転んだ」へとイベント名が変わった。


 しばらく進んでまた振り返ると、かなり距離は縮んでいた。このままでは追い付かれてしまう。


 目標まで20m、もう振り返らずとも足音でもう近いということが分かる。


 残り10m、


 5m、


 1m、


 家に到着。安堵して振り返ると、姿は消えていた。


と思いきや、


「ニャア」


 最初は小さくて気づかなかったが、そいつは私の足元に居た。だるまさんはタッチされてしまった。どうやら私が提げているコンビニの袋に興味がある様子。


「負けは負けだ、ほら、いつものやつだよ」


 私はしぶしぶ、先ほど買ったソフトさきいかを二切れほどくれてやった。


 深夜散歩は、独りが好きな人、あるいは猫と会いたい人におすすめの趣味である。

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