6本目 つまらないテレビ

 機械いじりが趣味のエヌ氏は、あるとき「つまらないテレビ」を作り出した。


 それはテレビを見ている人の表情などを画面上部に取り付けた小型カメラで観察し、その人が興味を示した番組はそれ以降電波を遮断して映らなくなり、逆に退屈な反応を見せた番組ばかりが残って放送される仕組みになっている。


 というのもエヌ氏は最近、六つになる息子が外にも遊びに行かず、テレビばかりに熱中していることを心配していた。勉強させようと思ったエヌ氏は、小学校の入学を前に奮発して学習机を買い与えたが、目論見は外れ、息子は机に見向きもしなかった。


 しばらく頭を悩ませたエヌ氏は、「テレビがつまらなくなれば、きっと別に遊びを見つけたり勉強に気が向いたりするだろう」との考えからひとつの案を思い付き、それが「つまらないテレビ」だった。ちなみに、エヌ氏本人にテレビを見る習慣はあまり無かったので、これによって自分が困る可能性についてはさしあたり問題なかった。


 さっそく作り、リビングに設置してみると効果は早かった。最初の数日で子ども向けの番組が映らなくなった。それから数週間ほどで、バラエティやお笑いなど娯楽らしい番組は順番に画面から姿を消し、1か月が経過した頃には、遂に報道番組まで映らなくなっていた。


 とある日、エヌ氏は仕事が早く終わり、珍しく夕方には自宅に着いていた。

 ふと、テレビを付けてみると、いかにも子どもが見ないような、それどころか大人すら見ない、まさしくつまらない番組が放送されていた。


 エヌ氏はテレビの出来に満足しながら部屋着に着替えていると、しばらくCMが流れたあと、今度は野球中継が始まった。


 息子はどうやら野球には興味が無かったらしい。


「さて、今シーズンの開幕ゲームは巨人対阪神をお送り致します。実況は〜」


 エヌ氏はアナウンサーの声を聞きながら、今日が三月の末日、つまりプロ野球の開幕日ということを思い出した。


 エヌ氏は元々野球少年で、典型的な巨人ファンだったが、仕事の都合でもう何年も野球は見れていなかった。


「何年ぶりだろうなぁ」


 久しぶりに目にした野球中継の、それも開幕戦に気を良くしたエヌ氏は、テレビの前で正座をして、その記念すべき初球を息子と同じくらいの子供のような目で見守った。


 投手のグラブが上がる。エヌ氏の興奮はピークを迎えようとしていた。

「一回表、巨人はピッチャー○○、さぁ開幕の第一球を――」


ブツン――。

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