華族

キマ

第1話 懐かしい匂い

懐かしい初夏の香りがしてきた。


ゴールデンウィークで名古屋の実家に帰省する際にお土産として母の好きな饅頭とヨモギで包んだ鯖寿司を買って私は22:00発の夜行バスに乗車した。


名古屋に着くのは日付が変わって朝方の5時に着く予定だ。それまで私はスポティファイで音楽を聴きながら窓に寄りかかり、真っ暗な景色を眺めていた。

東へとバスは向かっているのに、景色は変わらない。

すると、パッと電気が薄暗くなり、時刻は23:00前。辺りを見回すと寝ている乗客が殆どだった。


出発前に思う存分寝てしまったので、寝ようにも寝れない。

バスは一般道から高速道路へと車線変更し、料金所を通過、本線に入った。

スピードが上がる音がした。

「こうしてまた親戚が集まって色んな思い出話に花が咲きそうだ、、」とワクワクしながら、私はウトウトしていた。気が付けば、明け方前の4時半。

パーキングエリアで休憩をとった後に、バスは愛知県へ入域、到着予定時刻より30分オーバーして名古屋に着いた。


五月の名古屋はとても肌寒く、思わずくしゃみをしていたが、バスに同乗していた女子大生が私にカイロを渡した。

「これで暖かくなりますね」

私は少し照れて、小声で「ありがとう、、、」と言った。

女子大生は「何処から来たんですか?」と私に尋ねた

私は「下関です」と応えると、女子大生は「私は福岡だから近いですね!」と返した

その後も女子大生と話をした。


女子大生とは地下鉄の入り口で別れ、私は階段を下りて切符を買った。

「どこか色々廻るから一日乗車券でいいだろ」

私は一日乗車券を手にし、改札を抜け、階段を下りてホームに着いた


私の実家は春日井市にある為、地下鉄と私鉄と乗り換えして実家を目指すルートだ。


電車が来て私は乗車し、三駅先で別の路線に乗り換えそこから6駅先で私鉄に乗り換えた。

地下から地上に出るとき、目の前にあったコロッケ屋さんが閉店していた。

私が一人暮らしする前によく祖母と食べていたコロッケ屋さんのカニクリームコロッケ、、

祖母は2年前に他界したが、思い出のコロッケ屋さんが閉店したのはとても哀しい、、

よく公園のベンチで食べていたなぁ、、あの味は忘れないよ、、


私は虚しさを噛みしめ、私鉄の駅舎へと向かった。

改札を抜け、ホームで電車を待つ、、

赤い何かがこちらに向かってきた途端、懐かしさが一気に溢れ出た。

高校の通学路として使っていた”あいつ”だった。

赤い車両の”あいつ”だけは高校の時と変わらない。

懐かしさに浸りながら、私は車内へと乗車した。


いつもの匂い、いつものフカフカな座席

車窓から見える景色は多少変わっていたが、高校三か年付き合っていた”あいつ”は変わらない。


春日井に到着し、連休という事もあって、駅には多くの人が見かけられた。

そんな中、一人の男性が両手を振って、何か叫んでいる。

「おーい!ここだよ!」



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華族 キマ @kimades

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