第115話 能力の整理
「一つ目の宝箱の魔導具を解錠できる能力は、どの規模までの宝箱を開けられるのか検証が必要だ。大きくなれば使用する魔力が増えるだろうし、能力の限界もあるだろう」
「そうですね」
「できることならなかった事にしてしまいたいのだが、そうもいかないと思い直した。
「わかりました」
申し訳なくてしゅんと肩を落としてしまう。
ルカだけじゃない。知ってしまったミカエルさんも危ないんだ。
「二つ目、素材を部分的に補う事象は、素材が不足している場合に起こると考えられる。これまでは全ての素材を使うか、全てを使わずに魔力で修理をするかのどちらかだったからな」
「なるほど」
「単にたまたま能力が発現しただけで、素材が全て揃っていてもできるのかもしれないが、その可能性は一旦置いておく」
紙には二行追加され、文頭に○を意味する記号と?を意味する記号が書かれた。
「三つ目、上位の魔導具に変更してしまう能力だが、これは発現が一度きりだからまだ何とも言えない。判明しているのは、素材と魔力の双方を使用することだけだ。だが素材は魔力で
ミカエルさんは三つ目の下に文を書いた後、?マークをつけた。
要は何もわかってないってこと。
「素材を魔力で補う能力を持つ魔導具師は過去にも存在していたが、上位の魔導具に変更する能力は発現の例がない。そもそも人間が魔導具に変化を加えられるという事象がこれまで起きていない。いまさらではあるが、
グレードアップしちゃった事には驚いたけど、性質変化はもう馴染みがありすぎて、実例がないと言われてもぴんとこない。簡単にできるのに。
「次に、これからどうするか、だ」
「はい」
「さっきも言ったように、とにもかくにも検証だ。だが、
そうなんだよね。
私の魔力量は普通で、うっかり使うとすぐに
そのたびに倒れるのは困るし、寿命が縮まるのも嫌だし、ミカエルさんも許してくれないだろう。
かといって、ずっとミカエルさんについていてもらう訳にもいかないよね。
「だから、検証の前に、魔力の制御を覚えろ」
「魔力の制御?」
「そうだ。自分の魔力を使わないようにするのだ」
「どうやって?」
私が首を傾げると、ミカエルさんは不思議そうな顔をした。
「
「鍛錬とは?」
「簡単な魔導具を修理して修理して修理しまくる。完璧に魔力を使わずに修理できるようになるまで」
「そんなにたくさんの魔導具の準備なんてできないですよね?」
今までだって、修理の練習をするのにかき集めるのが大変だった。
「まさか――」
にっこりとミカエルさんが笑った。
「ランプと浄化なら好きなだけ修理できる」
「そんな!」
ランプと浄化の魔導具ならいくらでも簡単に損耗率をためられる。
修理して、ちょっと使って、また修理するの繰り返し。
無駄に魔石と素材を消費するだけの生産性のない作業。
絶対に精神的に負担になるからと、最初にそれだけはやめておこう、とミカエルさんと話し合った事だった。
「安心しろ。研究の一環として、素材と魔力はわたしが提供する。その代わり、素材を補ったり、上位の魔導具に変化させるような事象が発生したら報告するように」
「それだけは勘弁してください……!」
「ではどうする?」
首を振った私に、ミカエルさんが問いかける。
「普通に、修理の仕事をしながら徐々に慣れていくとか……」
「うっかり能力を発現させない確証はあるのか?」
「……ありません」
自分で意識してやったわけじゃないから、そんなのあるわけない。
「何事にも基礎練習というものは必要なのだ。セツは始めから修理ができていたからそれ程やっていなかったが、通常は弟子入りした時に延々と修理の練習をするものだ」
「私、これまでも練習してました!」
やれやれ、とミカエルさんが首を振る。
「ギルドの仕事と修理屋を
その通りすぎる。
「で、でも、これまではそれで良かったじゃないですか」
「わたしが甘すぎた。これからは厳しくいく。セツの能力が想定以上だったからな。これもセツを守るためだ」
「ぐっ」
私を守るためだと言われてしまうと、今度こそ何も言えなくなった。
「……ギルドの仕事はやらないわけにはいきません」
修理屋の仕事を止めてしまって、性質変化の仕事もしなかったら、ギルドに工房を構えている意味がなくなってしまう。
「ああ。それは許可しよう。性質変化も鍛錬になるだろうしな」
最低限の希望は叶えられた。
ここから、私の地獄の鍛錬の日々が始まった。
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