第116話 閑話6:火竜

 ついにわたくしたちは火竜の住処すみかへとたどり着きました。


 洞窟の最奥、天井の高い大きな空間で火竜が丸くなって眠っています。


 ここに到達するために、何十枚もの盾を壊しました。


 ですが、それでもなお、わたくしたちの手元には十枚の盾がありました。


 いくら火竜の炎の息吹いぶきが強力であろうとも、これだけの水竜の盾があれば倒しきることが出来るでしょう。

 

「起こさないように、そっと近づこう」


 勇者様が盾を五枚まとめて抱えました。


 ルビィが四枚、わたくしが残りの一枚を持ちます。


 わたくしたちはなるべく火竜に近い位置に盾を置きました。


「この一回でケリをつける」


 勇者様が力強く宣言します。


 わたくしは自分たちに耐火の魔法を重ねがけすべく、呪文を唱え始めました。





 ぼぅっ!


 火竜の容赦ようしゃのないブレスが勇者様を襲います。


 後方で支援をしているわたくしにも、そのすさまじいまでの高温を感じました。


 勇者様は手に持つ盾の能力でそれを受けました。足を踏ん張り、その勢いに耐えます。


 そして、ブレスが途絶えた瞬間を狙って火竜に斬りかかりました。


 負けじとルビィも強烈な蹴りを火竜の頭部に浴びせます。


 火竜は弱ってきていました。


 攻撃こそ鈍ってはいませんでしたが、勇者様の光魔法をまとった剣により全身に傷を負い、ルビィの打撃によろめくような動作を見せました。


 あと少しで倒せる。そんな予感がありました。


 ですが――。


「くっ」


 ブレスを受けて、勇者様が構えていた盾がバキリと音を立て砕け散ってしまいました。


 すかさず勇者様は、地面に置いてあった最後の盾――水神の盾を拾い上げました。


 王都で修理させた水竜の盾が戻ってきた後、一枚だけ水神の盾が混ざっていました。


  勇者様は自分たちで得たものではないからと渋っておられましたが、わたくしとルビィで説得したのです。


 次の火竜のブレスを、勇者様は盾で受けるのではなく、横に飛んで避けました。


 勇者様の耐火魔法の効果が切れそうになっているのを見て、わたくしは呪文を唱えようとしました。


 その時、体の中に湧き上がる物を感じました。一つ上の耐火魔法を習得したのです。


 わたくしは早速さっそくその魔法を唱え、勇者様にかけました。


 多くの魔力が体から抜けていきます。


 最後の魔力ポーションを飲みますが、感覚からして、新しい耐火魔法もそう何度も使えそうにありません。


 火竜が尻尾を振り回しました。


 勇者様が上に、ルビィが後ろに飛んでそれを避けます。


 素早く向き直った火竜が、口を大きく開けました。


「くっ」


 勇者様は盾を構え、スイッチを入れて水の盾を展開させますが、踏ん張ることのできない空中でブレスを受ければ、その勢いで飛ばされてしまうのは自明の理です。


 最悪な事に、後ろにはマグマの海が広がっていました。そこに落ちれば、たとえ勇者様といえども、一巻の終わりです。


「勇者っ!」

「勇者様っ!」


 ルビィが勇者様へと向かって走り出しました。


 煮えたぎるマグマの前では何の意味もない事はわかっていながらも、わたくしも勇者様に耐火魔法を重ねがけしました。


 ブレスが勇者様を襲います。


 駄目っ!


 しかし、わたくしの予想に反して、ブレスによって勇者様が飛ばされる事はありませんでした。


 なんと、盾がブレスの勢いを防いでいたのです。水神の盾の効力でした。


 勇者様はブレスの攻撃を耐えきり、無事その場に着地しました。


 続けて吐き出されたブレスも、盾は見事に防ぎました。


「なんだ……?」


 疑問の声が上がりますが、それを深く追及する余裕は当然ありません。


 ブレスの勢いを殺せると知った勇者様は、火竜に向かって駆け出しました。ルビィもそれに続きます。


 勇者様を抜き去ったルビィが脚へとこぶしを放ちますが、火竜は持ちこたえ、勇者様に向かって口を開けました。


 構うことなく距離を詰める勇者様。


 火竜のブレスを受け止め、そのまま跳躍します。


 バキンッ。


 盾が霧散しました。


 しかしすでにブレスは途切れ、眼前に迫った勇者様は――。


「はぁっっ!」


 一閃いっせん


 ――火竜の首を斬り落としました。


「よっしゃぁっ!」

「やりましたわっ!」


 ガッツポーズをしたルビィに続き、わたくしも勇者様へと走り寄りました。


 三人で喜びを分かち合います。


「さっさと女神様の力をもらおうぜ!」


 ルビィの視線の先を見ると、火竜の落ちた首の上に、光の球が浮かんでいました。


 勇者様が火竜の上に上がって触れると、光は分裂し、わたくしたち三人の胸の中に吸い込まれていきました。


「ステータスオープン! よしっ、レベルアップした! ――さて。こんな熱い所からはさっさと抜けだそう。強くなったから、戻るのは簡単そうだ」

「だな!」

「そうですわね」





-----

新作始めました。


▼神聖文字の解読者

https://kakuyomu.jp/works/16816927862976236171

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る