第70話 偉そうな魔導具師

 あごまでのウェーブのかかった金髪の男の人だった。歳は二十代くらいかな。外国の俳優さんくらいイケメンだ。


 ザ・貴族って感じのひらひらした服を着ている。


 この人はミカエル・ハインリッヒさん。見た目通りの貴族の人だ。


「ミカエル様、わざわざご足労ありがとうございます」


 ヨルダさんに続いて、私とリーシェさんも頭を下げた。


「構わない。冒険者ギルドには世話になっているしな。貴様がわたしを呼んだ魔導具師か?」


 これまた見た目通り偉そうな態度だった。


「セツです。よろしくお願いします」


 私は丁寧に頭を下げたのに、ミカエルさんはふんっと鼻を鳴らしただけだった。


「わたしは忙しい。早く済ませろ」


 ミカエルさんが私の前の席に座ったので、私もソファに座り直した。


「早くしろ」


 深く座り足を組んだミカエルさんに、あごで指示される。


「えと、私が損耗そんもう率を確認して、それを確認してもらう、ということでいいでしょうか」

「当たり前だろ。わたしが何のためにここに来たと思っているんだ?」


 イライラしたようにミカエルさんが言う。


 私は、木箱の中から浄化の魔導具を取り出した。これが一番わかりやすいから。


 すると、ミカエルさんが舌打ちをした。


「ますやるべきはランプだろうが。そんなことも知らないのか」


 馬鹿にするような声だった。実際私の無知を馬鹿にしてるんだろう。


 ムカついたけど、事前にリーシェさんから、貴族だから怒らせないように、と言われていたので、ぐっとこらえた。


「すみません。ランプの魔導具ですね」


 私は箱の中からランプの魔導具を選び出した。


 ランプの中身の魔導具の部分だけだから、そんなに大きくはない。


「全部並べろ」


 またあごで指示される。


 私は木箱の中のランプの魔導具をテーブルの上に並べた。全部で六個あった。


「できました」

「並び替えろ」

「並び替える?」


 首を傾けて聞き返すと、ミカエルさんはまた舌打ちをした。


 私たちを見守っているリーシェさんがおろおろしている。


 ヨルダさんは慌ててこそいなかったけど、眉を寄せて心配そうにしていた。


「損耗率を確認して、少ない順に並べろと言っている」


 私は魔導具を並び替えた。


 重さは取り出した時に確認しているので、何の迷いもなくすぐに完了した。

 

「できました。こっちが少ない方で、こっちが多い方です」


 私は右端の魔導具を指差したあと、左端に向かって指を動かした。


「は? そんな簡単にわかるわけないだろう。わたしを馬鹿にしているのか?」

「馬鹿になんてしていません。順番に並べました」

「ふんっ。わかるものか。貴様は魔導具師をかたる偽者だ」

「ちゃんと確かめて下さい」


 私がムッとして言うと、ミカエルさんはとても面倒くさそうに右端の魔導具を手に取り、じっくりと時間をかけて観察し始めた。


「ふむ……」


 そして今度は、左端の一番軽い――つまり損耗率の大きい魔導具を取り、手の中で回しながらじっと見た。


 しばらくして、おや、とばかりに肩眉を上げる。


 次は左端から二番目を手に取った。


「馬鹿な……」


 そこから順番に、右端に向かってあせったように確認していった。


「どうでした?」

「ふ、ふんっ、どうやら貴様は運がいいようだな。偶然にも正しく並べられたようだ」


 負け惜しみのような言い方だった。


「次は浄化の魔導具をやれ」


 またあごで偉そうに指示される。


 はいはい、と心の中で返事をしながら、私は浄化の魔導具をテーブルの上に並べた。


 私の一番得意な魔導具だ。十個あったけど、すんなり並べることができた。


「できました」

「並び替えろ」

「並べてあります」

「はっ。今度こそ嘘だな」


 言いながら、ミカエルさんは魔導具をつまみ上げた。


 今度は隣同士の魔導具を両手に持って見比べている。


 さっきもそうだったけど、一体何を見ているんだろう?


 表面の模様?


 でも模様は同じ魔導具で変わらないはずだよね。


 ミカエルさんは、全部の魔導具を確認した後、ニヤリと笑った。


「やはりな。これとこれが逆だ」

「嘘!?」


 私は言われた浄化の魔導具を持ち上げた。


 ううん、間違ってない。


 少しだけど重さが違う。この順番で正しい。


「これで合ってます」

「いいや、違うな」

「合ってます」


 私が言い返すと、ふんっ、とミカエルさんは鼻で笑った。


「わたしの目は誤魔化せないぞ。だいたい、確認が速すぎる。損耗率は表面の微細な変化を見るものだ。一目で確認できるものではない」

「え?」


 表面の変化? どういうこと?


「大方、印でもつけてあるんだろう。それを見間違えたか、印をつけ間違えたな」

「私、表面なんて見ていません。重さで確認しています」

「重さ? 何を言っている」

「こう、持って比べます」


 私は魔導具を両の手の平に乗せて上下した。


「馬鹿な。そんなことで判断できるものではない」

「でもできるんです」

「間違えたではないか」

「間違えていません」

「魔導具師のわたしが間違えているとでも言うのか」

「そうです。私は合ってます」


 私とミカエルさんはにらみ合った。

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