第24話 ハズレの証明

 出勤すると同時に、朝の業務が始まる前にリーシェさんを捕まえて、不発弾の話をした。


「言いにくいですが……とても信じられません」

「でも、本当なんです」


 検証はさっきの一回きりだ。


 だけど、これまでの経験からもそう思える。


 薬草採取に行った時、五個ともハズレだったのは、魔導具屋さんでこれだって思ったのを買ったからじゃない?


 六個目もそう。違和感があったやつだった。


 そして光った七個目。何も考えずに投げたあれは、特に何も感じない、普通の閃光弾。


 八個目、光ったのは違和感のないやつ。


 九個目、違和感のあるやつは光らなかった。


 それをリーシェさんに説明したけど、やっぱり信じられないようだった。


「ただの偶然にしては続いていますが……」

「リーシェさんの目で確認してもらえませんか」

「それは構いませんが、使った魔導具はセツさんの買い取りになります。失礼ですが、もう手持ちがありませんよね?」

「はい……」


 私は唇を噛んだ。


「もしセツさんが本当に不発弾を見分けられるとなると、すごいことなんですけど……」


 リーシェさんは困ったような顔をしていた。そんな訳ないと思ってるんだ。


 無理もない。それがこっちの世界での常識。当たりかハズレかは完全ランダム。


 ゲームなら、個々のアイテムのパラメータではなく、投げた時に確率の計算が走って成功か失敗か決まるだろう。現実にもきっとそうだ。


 だけど、私には、不発弾がわかる。


「確かめて、欲しいです」


 私はリーシェさんの目をじっと見て言った。


「わかりました。では、お仕事の後に確認しましょう」

「よろしくお願いします」




 * * * * *



 リーシェさんは、自分の仕事が終わったあと、私の作業部屋にやってきた。


 私の仕事はまだ残っていたけど、一時中断だ。昼間にすごく頑張ったから、ちょっとくらいなら余裕がある。


「では、さっそく見せて頂けますか」

「はい」


 私は昼間より分けておいた、閃光せんこう弾の違和感のあるやつ――不発弾を手に取った。


「これは不発弾です」


 リーシェさんは後ろを向いた。目をやられないようにだろう。閃光弾の強い光であれば後ろを向いていてもわかる。


 私は壁に向かって閃光弾を投げた。


 ゴンッ


「え?」


 木の壁に当たったそれは、閃光を発することなく消えた。


 リーシェさんが驚いて振り向いた。


「これも、不発弾です」


 私はリーシェさんが後ろを向くよりも早く、閃光弾を再び壁に投げつけた。


 リーシェさんがとっさに顔を両腕でかばう。


 だけど、やっぱり閃光弾は光らなかった。


 リーシェさんは眉を寄せて難しそうな顔をした。


「もう一つ、お願いできますか?」

「私のお金だと、ここまでが限界です」


 もう、宿泊費も出せないくらいしか残っていなかった。前払いした分が尽きれば、そこで私の帰る場所はなくなる。


 一応、いざとなったらこの作業部屋で寝泊まりしてもいい、という承諾はもらってあるけど……。


「費用はいりません。ギルドが持ちます」


 私はほっとした。


「それならもう一個いきます」


 お金がかからないなら心配はいらない。


 今度はリーシェさんは目をつぶったりせず、しっかりと閃光弾の行く末を見た。


 当然のように、光は出ない。


「見せて下さい」


 私はリーシェさんに次の一個を渡す。


 リーシェさんは閃光弾の外見を念入りに確認した。私が不発弾ではないと判別した物も取って、見比べている。


「私が投げても?」

「どうぞ」


 リーシェさんは不発弾を投げた。


 もしかしたら私が投げた時だけなのかも、とドキドキしたけど、閃光弾は何も起こさずに消えた。


 続けてリーシェさんは当たりの方を投げる。


 私は光るとわかってたから目をかばったけど、リーシェさんはまともに光を見てしまったらしく、小さく悲鳴を上げていた。


「少し待っていて下さい」


 目を押さえたリーシェさんは、部屋を出て行った。


 そしてすぐに戻ってくる。


 職員をもう一人連れていた。


 目を痛めたんじゃないかと心配したけど、そうではなくて、他の人にも見てもらいたかったようだ。


 リーシェさんともう一人は、私がより分けた不発弾を次々に投げていった。時々当たりの物も交えて。


 全てのハズレを投げきったあと、二人は顔をこわばらせていた。


「セツさん、今日はこれでお帰り下さい。このことはどうか内密に」

「でも、まだお仕事が……」

「今日はもう結構です。あとは私たちでやりますので」


 なんだか仕事を休んでばかりなような。いいんだろうか。


 それに、出来高制の私としては、数をこなせないのは実はとても痛い。


 だけど、ちょっとそんなことは言えない雰囲気だった。


「残りの分の報酬もお支払いします。どうか今日のところはお帰り下さい」

「わかりました。帰ります」

「家まで送らせます」

「え? そんな、いいです」


 これまで、どんなに遅くなっても一人で帰っていた。


 ギルドは大通りに近いし、今まで危ない目にもっていない。


 わざわざ送ってもらう必要なんてない。


「いいえ、送らせます」

「わかりました……」


 すごく強い口調でリーシェさんに言われて、私はおずおずとうなずいた。


 私は、こっちの常識を打ち破れた気がして、それが嬉しかったってだけの気持ちだったんだけど……。


 なんか、まずいことをしてしまったんだろうか。

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