第25話 冒険者ギルド長
次の日の朝、朝ご飯を食べようと宿の一階に下りると、私を待っている人がいた。
前日の夜に私を宿まで送ってくれたデルトンさんだ。迎えに来たらしい。
デルトンさんは、がっしりとした体つきをしていて、剣を腰に差している。ギルドの制服を着ていなければ、冒険者だと思うところだ。
「ごめんなさい。私これからご飯で。急いで準備するので待ってて下さい!」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ。早く来てしまっただけですから」
そうは言われても、人を待たせているのは居心地が悪い。
なんで迎えにきたんだろうと思いながら、一向に慣れない個性的な朝食をお腹に詰め込んだ。一日でたった一回のご飯だ。絶対に抜けない。
あっちではあんなに悩んでいた体重も、こっちに来てから見る間に減っていった。食べていないのだから当然で、よくない
ここにきて、ようやく私は後悔していた。
検証に使った魔導具は五個。いくらそんなに高くないとはいえ、もったいなかったと思う。ていうか、高くないと思えたのはまだお金があった時で、今の私には高級品だったのに。
自分の浅はかさに気分が沈んだ。
今月のお小遣いがなくなるってレベルの話じゃない。
このとても
ギルドの作業部屋に転がりこめば、なんとか……。あともう少しで他の仕事も紹介してもらえるようになるし……。
本音を言えば、魔導具の選別の作業は気に入っているので続けたいけど、これだと毎日収支はマイナスだ。他の仕事を探さないといけない。
最初に病気になったときの事を考えてお金は貯めておかなくちゃ、とか考えていた自分に笑ってしまう。あのときはまさかこんなカツカツになるとは思っていなかった。
そして周りの人もそんなに裕福そうじゃない。その日その日を何とか生きている暮らし。
親の
味わって食べよ。
私はパンの最後の一口を口に入れて――やっぱり美味しくない、とあまり
* * * * *
光の速さで準備をして、デルトンさんと一緒に冒険者ギルドに出勤した。
本当にただ一緒に行くだけで、デルトンさんが一体何しに来たのかわからなかった。
「セツさん」
いつもの作業部屋に行こうとすると、待ち構えていたようにリーシェさんに声をかけられた。
「お仕事の前にこちらへ」
「はい……?」
なんだろう、とついていくと、リーシェさんは二階の一番奥の部屋に向かった。
扉のプレートは相変わらず記号の羅列にしか見えない。
だけど、そこがギルドで一番偉い人の部屋だってことは知っていた。
やっぱり私、なんかまずいことをやっちゃったんだ……。
閃光弾とは言え事故を起こしたわけだし、昨日も調子に乗ってたくさん使っちゃったし、不発弾を見分けられるなんて非常識なことを言い出して。
そもそも紹介した仕事から逃げ出してギルドの信用を落としたんだし。
急に不安が襲ってきた。
だけど、リーシェさんはそんな私のことは知らず、扉を軽くノックして開けてしまう。
部屋の正面、大きな机には、このギルドで一番偉い人――ギルド長が座っていた。
銀色の髪を後ろでまとめていて、眼鏡をかけているおばさん。立ち上がったそのスタイルはよくて、すごく美人だった。
「あなたがセツさんね」
「はい」
「ヨルダよ。よろしく」
「よろしく、お願いします」
差し出された手を握って握手した。
「座って」
言われた通りに、横にあったソファセットに座る。正面にはヨルダさん、隣にはリーシェさんが座った。
「報告を受けたわ。あなた、不発弾の見分けができるそうね」
「あ、はい」
ヨルダさんは目を細めて言った。疑いの目だ。
私は
ヨルダさんはテーブルの下から木箱を取り出した。中には
「この中に不発弾はあるかしら」
「えっと……」
私がリーシェさんの顔を見ると、リーシェさんは小さくうなずいた。
閃光弾は全部で八個。
一つ一つ取り出して、重さを確かめるように手を揺らしてから、テーブルの上に並べていく。
全部並べ終わった後、私はそのうちの一つを指さした。
「これです」
ヨルダさんがリーシェさんを見てうなずく。
リーシェさんはそれを取ると、おもむろに放り投げた。
柔らかい
身動き一つせずにそれを見ていたヨルダさんが、大きく息を吸って、吐いた。
「他の
「たぶん……」
確かめたことはない。だってただ光るだけの閃光弾と違って危ないから。
でも、感覚が違うのはわかる。
「検証が必要ね」
ヨルダさんが立ち上がった。私もそれにつられて立ち上がる。
リーシェさんに先導されて部屋を出た。
「今日もお仕事をお休みして頂きます」
「ええっ?」
困る。お給料がもらえない。
「これはギルドの要請ですから、日当はお支払いします」
「あ、ありがとうございます」
お給料が出るなら、心配はない。
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