第22話 仕分けの仕事
シマリスのせいで街の外がトラウマになった私は、街から出られなくなった。
必然的に冒険者のクエストは受けられない。
かといって、信用を回復できていない私は、長期はもちろんのこと
街角にある募集の張り紙を見て応募することも考えたけど、売春宿でのこともトラウマで、ギルドを通さない仕事を受けるのも怖かった。
一切の収入がないまま、生活費が出ていくだけの日々が過ぎた。何も買わなくても、ご飯を朝だけにして水でしのいでも、宿代だけはかかっていく。
もっとランクの低い宿にするのもまた怖い。
何をするにも悪い事が起こるような気がして、私は身動きがとれなくなった。
そういう時に限って、買い換えたばかりの浄化の魔導具が立て続けに壊れる。
でも水がなければ生きていけないし、汚い水を飲んだらお腹を壊してしまい、死ぬんじゃないかという思いを味わって、新しく買う以外になかった。
減っていくばかりの預金をギルドに下ろしに行った時、そんな私を見かねてか、リーシェさんが声をかけてくれた。
「セツさん、ちょうどギルドで人手を探しているんです。お給料は安いですが、何もしないよりはいいかと。やってみませんか?」
「ごめんなさい。冒険者のようなことはできないです」
「内勤なので大丈夫ですよ。事故はないとは言えないですが、気をつけていれば安全な仕事です」
「私に紹介してくれるんですか……?」
「ええ、これはギルドからの募集で、仕事の
優しく言われたけど、私は簡単にはうなずけなかった。
たぶん破格のお誘いだ。
だけど、また前のようなことが起こったらどうしよう、という思いが
「詳しいお仕事の内容をお話ししますね。それから決めて下さっていいですよ」
話だけでも聞いてみよう。
「お願いします」
リーシェさんは私を二階の部屋に連れて行った。
「お仕事は、魔導具の仕分けとカウントです。冒険者さんたちが持ち込んだ魔導具を種類ごとに仕分けして、どれが何個あるか数えて頂きます。火炎弾はご存じですか?」
「はい」
「そういった攻撃用の魔導具もあるので、取り扱いには注意が必要です。ですが、さっきも言った通り、気をつけていれば危険はありません」
それなら、私にもできる気がした。
「正直、本当に少ししかお給料を出せなくて、なり手がいないんです。これまで職員が片手間にやってたんですが、一人抜けてしまってここまで手が回らなくて……」
告げられたお給料はすごく安かった。宿代にも全然足りない。
だけど、
「私、やります」
「助かります。この仕事も実績になりますので、働きぶりによってはまたお仕事をご紹介できるようになりますよ」
「ありがとうございます」
こうして、私はギルドで魔導具の仕分けをする仕事を始めた。
預金が底をつくのが先か、私の仕事が評価されるのが先か。もうこれしか生きる道はなかった。
* * * * *
「なーんか違うんだよなぁ……」
手にした
お
床に
閃光弾に火炎弾。水流弾に
最初は違いを見分けるのが難しかったけど、今はぱっと見るだけでわかる。冒険者も
そりゃそうだよね。投げるときにどの魔導具かわからなきゃ大変だもん。
見慣れなくて用途がわからない魔導具もあった。そういうのはまた別の箱に入れていく。職員さんに見てもらうのだ。
「閃光弾は、一、二、三……七個、と」
横に置いておいたバインダーを取り上げて、魔導具の数を書き込んでいく。
下手くそな字だけど、読めなくはないだろう。数を書き込む場所は、リストの順番と単語の形で覚えた。
朝から晩までずーっとこの調子だ。
ギルドには、次から次へと魔導具が持ち込まれてくる。その買い取り価格を査定するために、こうして数を数えるのだ。やってもやっても終わらない。
特に夕方は引き上げてくる冒険者がたくさんいて、いっぺんに数が増える。
常連さんの分は代金を勝手に口座に追加してけばいいから時間のあるときに片付ければいいんだけど、街を出る冒険者なんかは即金でと言ってくる。急ぎのときは余計に手数料を取るのに、それでも結構な頻度で言われる。
そんな時は優先して仕分ける。そういう冒険者に限ってすんごいたくさん持ってきたりするものだから大変だ。ぽいぽい投げる訳にもいかないし。
冒険者ギルドが買い取った魔導具は、たいていそのまま魔導具屋に
そうやって、ずっと魔導具に接しているうちに、他と違う雰囲気だと感じる魔導具が出てきた。
種類が違うわけじゃない。同じ閃光弾の中でも、何となく違う物があるような気がする。
でもそんな訳はない。閃光弾は閃光弾。どれも効果は同じ。いわば量産品なのだ。もっと効果の高い魔導具は、また違う見た目をしている。
だけど、たまに感じる違和感は、日に日に強くなっていった。
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