70話。詫び石配布で10連続ガチャ

 夏の戦力強化キャンペーンでSSRの神の出現率が5倍。15パーセントにアップするなら、課金ガチャに賭ける価値は十分にある。


 なにより、ようやくわかり合えたティオとイリーナを死なせる訳にはいかない。

 魔王ベルフェゴールが外に出れば、ダークエルフは勢力を盛り返し、僕たちの住むシレジアの地はめちゃくちゃになるだろう。この国だってどうなるかわからない。

 僕がここでヤツを食い止めるんだ。


「おおおおおおっ! ミスリルの剣を課金、投入! ガチャオープン!」


『ミスリルの剣に、100万ゴールド以上価値を認めます。決済完了!』


 僕の手元から、虎の子のミスリルソードが消え去った。

 これで強い神が出現しなかったから、大ピンチだ。


「SSRよ、こい! SSRよ、こい!」


 ルディアが手を握り締めて、天に祈りを捧げる。


「クハハハッ! 例えSSRの神が出現しようと、この俺を倒せる訳がねぇ! 何者であろうと粉砕してやる!」


 魔王ベルフェゴールが僕に向かって突進してきた。


「させん!」


 神竜バハムートが【神炎のブレス】で、魔王を吹き飛ばそうとする。

 だが、またもや何十発と同時発射された魔王の魔法が、【神炎のブレス】の軌道を逸し、バハムートを猛烈に打ち据えた。


『レアリティSR。剣神の娘アルフィン(水着バージョン)をゲットしました!』


「なにっ……?」


 思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。

 僕の目の前で眩い光が弾ける。

 光の中から、露出度の高いビキニ水着姿のアルフィンが転がり出てきた。


「あ、イタッ! って、ここは……?」


 アルフィンはあたりを見回し、目を白黒させている。


『剣神の娘アルフィンが強化されました。

スキル【剣神見習いLv385】が【剣神見習いLv436】にグレードアップ! 各種ステータスが上昇しました』


「えっ!? 私、強化されたの? うわぁああ、嬉しいって……なぜ水着!? ベルフェゴール!?」


 アルフィンは間近に迫ったベルフェゴールに向かって抜刀した。


「何が出てくるかと思ったが、脳味噌お花畑剣士かよ。ハズレだったみたいだな!」


 アルフィンは剣ごと魔王に弾き飛ばされて、ダンジョンの壁に激突した。

 とっさのことで、さしものアルフィンも剣に力を乗せきれなかったようだ。


「ぐうううう……パワーアップした最強剣士の私がぁ」


 アルフィンは痛みに顔をしかめる。防御力など無いに等しい水着のせいで大ダメージを受けたようだ。

 って、なぜ水着? 『夏の期間限定キャラクターも登場予定です』というのは、まさか水着キャラが出てくるということか?


 ……そ、そんな訳ないよな。

 戦力強化キャンペーンと銘を打っているのに、防御力を犠牲にしているじゃないか。


「ああっ! もう、どうしてあんたが出てくるのよ!? その水着姿は、かわいくて良いけど!」


 ルディアが頭を掻きむしっている。


「アルフィン、大丈夫か!? 悪いが加勢を頼む!」


 僕がアルフィンから継承したスキルも【剣神見習いLv436】にアップグレードされていた。おかげで剣技の威力が4.36倍に上がって、多少有利になったと言える。

 スペアの鉄の剣を抜いて、ベルフェゴールを迎え撃つ。


「はい、マスター! 最終決戦に駆け付ける最強剣士の私。考えてみれば、燃えるシチュエーションだわ!」


 アルフィンは壁を蹴って、僕の隣に一瞬で移動する。割と元気だった。


「ガチャなんぞ、しょせんは胴元の創造神が儲かるように設計されたギャンブル! なにが人と神を笑顔にする力だ! 笑わせるなルディア!」


「くぅうう!?」


 ベルフェゴールに嘲笑われて、ルディアがうめく。


「ちょっと! なんでルディアもベルフェゴールも私をハズレ扱いしているのよ!? あったまきたぁ!」


 アルフィンが抗議の声を上げながら、斬撃を繰り出す。ベルフェゴールは、それを危なげなくかわす。


「……でも、おかげでティオが逃げる時間が稼げたわ」


 幻影のイリーナが力を尽きたように膝をつく。その身は透けて消えかかっていた。

 イリーナの言う通り、ティオは上層に向かう階段手前まで到達していた。あとは上層にいるエルンストらと合流してくれれば、ティオは無事に逃げられる。


「ハハハハッ! バカが。この俺から逃げようなんざ甘えんだよ!」


 だが、ティオは見えない壁に激突したように、突然、尻餅をついた。

 イリーナが愕然と目を見張る。


「……ま、まさか。階段手前に結界を!?」


「当たり前だろ? お前の妹は俺の大事な晩飯なんだからよ。無駄な努力、ご苦労だったなイリーナ。まっ、お前の人生はまるごと無意味だったて訳だ!」


「コイツ……っ!」


 僕が悔しさに奥歯を噛み締めた時だった。


『お詫び。

 夏の戦力強化キャンペーン中、SSRの出現率が5倍になると告知しておりました。しかし、運営のミスにより実際の出現率は5倍になっておらず、3パーセントのままであったことがわかりました。

 ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。

 お詫びとして、課金に使われたミスリルの剣はお返しし、【神聖石】50個を配布させていただきます。

 今後、このようなことがないよう創造神以下、運営スタッフ一同、運営に注力して参りたいと思います。

 引き続きご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願いいたします』


 棒読みのシステムボイスが響くと同時に、僕の目前にミスリルの剣と、大量の神聖石が出現した。


「や、やったわ! みんなを守りたいというアルトの純粋な願いが奇跡を起こしたのよ! 【神聖石】50個があればSSRが確実にひとつ貰える10連ガチャが回せるわ!」


 ルディアが目を輝かせて大はしゃぎした。


「ハァ!? まさか詫び石だと!? ガチャの確率表記が間違いって……創造神の野郎、2000年前と全く変わっていねぇ! 何が、今後このようなことがないようにだ! ペテン師がぁ!」


 魔王ベルフェゴールの怒声が響いた。

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