2章。村の事業が急激に発展!

23話。【弟SIDE】オースティン伯爵、アルトに戻って来て欲しいと手紙を出す

 私──リリーナが大旦那様の部屋に入ると、大旦那様はすっかりやつれたお顔になっていました。


 無理もありません。

 大旦那様が、アルト様を追放して伯爵家次期当主に選んだナマケル様の悪評は、もはやとどまるところを知りません。


 ナマケル様は、王宮テイマーの仕事をなさそうともせず、非合法な仕事を請け負う者たちに声をかけています。


 どうやら冒険者ギルドに相手にされないので、裏稼業の者を護衛に雇ってドラゴンをテイムしに行くようです。


 しかし、裏稼業の者たちから、相当、足元を見られて、ぼったくられているようです。相手はナマケル様より、何枚も上手なのです。


 素直にシレジアの領主となられたアルト様に助けを求めれば良いと思うのですが……

 それだけは絶対に嫌なのだそうです。


 もうオースティン伯爵家に、未来はありません。


 私はアルト様の元に向うべく、大旦那様にお暇をいただくために、ここに来ました。


「リリーナ、お前はアルトとは親しかったな」


「はい。アルト様こそ、私の真のご主人様だと思っております。今日限りで、お暇をいただきたく存じます」


「そうか……お前はアルトの元に行くのだな? ならば好都合だ。この手紙を辺境のアルトにまで届けくれ」


 大旦那様はそう言って、封がされた手紙を取り出しました。


「ワシの目が曇っておった……

 ナマケルでは王宮テイマーは務まらぬ。

王女殿下にお怪我を負わせ、ドラゴンをテイムもできる目処も立っていない。

 そこを質の悪い連中につけこまれて、金をむしられておる……」


 大旦那様は、ここ数日ですっかり白髪の増えた頭をかきむしりました。


「このままでは、ワシの老後……いや、もといオースティン伯爵家はおしまいだ!

 王宮のモンスターたちは不満を溜め込んで、いつ暴走してもおかしくない。

 アルトこそ当主にふさわしかったのだ」


 大旦那様は、ご自分の過ちにようやく気づかれたようです。


 ナマケル様は大旦那様に対して、ゴマをするのだけは上手でした。

 そのため大旦那様はナマケル様ばかりをかわいがってきました。


 できればもっと早く、アルト様の日々の努力と功績を正統に評価していただきたかったです。


「ワシが代わりにモンスターの面倒を見ているが……手が回りきらん。

 アルトに戻ってきてもらい、当主の座に着いてもらう以外に道はない」 


「承りました。この手紙はアルト様に戻って来て、ご当主様になって欲しいという内容が書かれているのですね?」


 もしアルト様が、オースティン伯爵家を継いでくださるなら。それは私にとってもうれしいことです。


 この屋敷で、再びアルト様にお仕えできるのですから。


「その通りだ。だが、もしアルトが断るようなことがあれば……全力で説得してもらいたい」


「断る? アルト様がこのお話をですか?」


 大旦那様は不安そうなお顔をしておられます。

 どうやらアルト様が、このお話を蹴る可能性が高いと考えているようです。


「そんなことは、まず有り得ないと思いますが……王宮のモンスターたちをアルト様は、大変かわいがっておられましたし」


「この際だから、お前にも教えておこう。

 実はアルトは伝書鳩の手紙で、とんでもないことを報告してきたのだ……

 なんとエルフの王女を救い、エルフと同盟を結んだというのだ!

 友好の証として、エルフの魔法技術を提供をされたと言ってきておる!」


 大旦那様は、わなわなと震えだしました。


「事実だとしたら、歴史的な偉業だ!

 エルフは人間よりも優れた魔法の使い手だ。その魔法技術を、我が国は喉から手が出るほど欲しがってきた。

 たが、エルフは人間を嫌い、決して国交を持とうとしなかった。魔法技術を奪おうにも、奴らは結界を張った森で暮らしていたので、手が出せなかったのだ」


 なるほど、突然、アルト様を当主にするなどとおっしゃったのは、そういう魂胆もあってのことでしたか……


 エルフの盟友となったアルト様を連れ戻せば、エルフの魔法技術も手に入る。

 そうすればオースティン伯爵家の王国での名声と力は、大きく高まるということですね。


「わかったであろう? アルトがオースティン伯爵家と縁を切って、エルフの魔法技術とそこから得られる利益を独占するやも知れぬのだ。

 あやつはワシらを恨んでおるだろうからな……」


「アルト様は、復讐を考えるようなお方ではないと思いますが……」


 それにしても、スケールの大きな話になって私も驚きました。

 アルト様はシレジアで、大変な功績を上げられていたのですね。

 やはり、アルト様は偉大なお方です。


「父上、兄貴を当主にするって、どういうことだってばよ!」


 その時、ノックも無くナマケル様が、部屋に飛び込んで来ました。

 どうやら盗み聞きをしていたようです。

 ナマケル様は怒りに顔を赤くしています。


「今、凄腕の暗殺者を護衛に雇う交渉をしているんだ。それができれば、ドラゴンをテイムすることなんて簡単なんだよ!」


「ナマケルよ……お前の【ドラゴン・テイマー】について、ワシは勘違いをしていたようだ。

 【ドラゴン・テイマー】は無条件でドラゴンをテイムできるスキルではない。

 テイムに成功できるかは、基礎となるテイマースキルが大きく関係している。

 だからバハムートのテイムに失敗したのではないか?」


「なっ!? テイマースキルLv1のオレっちじゃあ、ドラゴンをテイムできないと言いたいのか!?」


「その可能性が高い……アルトと違い、ずっと怠けていたツケが回ってきたのだ。今のお前ではドラゴンをテイムすることは……おそらくできん」


 大旦那様は、過酷な現実をナマケル様に突きつけます。

 ナマケル様は屈辱に身体をプルプルと震わせました。


「なあ、ナマケルよ。このままでは、オースティン伯爵家はおしまいだ。

 アルトに頭を下げて戻ってきてもらうのだ。そして、兄弟仲良く我が家を盛り立てていってはくれぬか?」


 大旦那様はナマケル様に、やさしく問いかけます。


 私は不覚にも感動してしまいそうになりました。

 そうですよね。それが一番です。


「ああんっ? いまさら、何を言ってんだってばよ! オレっちの方が、兄貴より優れているんだ! オレっちこそ、当主にふさわしいんだよ!」


 ナマケル様はバンッ! と大旦那様の机を叩きました。

 その拍子に、机に裏返しに置いてあった書類が床に落ちてしまいました。


 私が拾い上げると『巨乳メイドとウハウハ暮らすワシの夢の老後計画』と、書かれていました。


 そのためには、アルトに戻ってきてもらうのが、一番良い。リリーナは貧乳だから要らんって……な、なんですか、コレ?


 思わず絶句です。


「父上、これは……父上の老後のために兄貴に戻ってきてもらいたいってことかよ!?」


「そ、そうだ! 何が悪いのだ! ワシはやりたくもないモンスターの世話を若い頃からずっとやってきたのだぞ!

 せめて老後くらいは、大好きな巨乳メイドちゃんに一日中囲まれて暮らして何が悪い! もう採用面接もしておるのだ!

 お前の方こそ、ワシの夢を邪魔するでない! この無能者めが!」


「なんだとっ! それが父上の本音だってか!?」


 おふたりは、そのまま醜い言い争いを始めました。


 はあ。やっぱりオースティン伯爵家はお終いのようです。


 大旦那様は老後を、アルト様におんぶに抱っこされて過ごすおつもりですか……

 こう言っては失礼ですが、まさに老害ですね。


 こんなおふたりの世話をするくらいなら。アルト様には辺境の領主様として、ご活躍いただいた方が良いですよね……


 ああっ、アルト様。早くお会いしたいです。

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