第31話まっすぐ前を向いて

「そうなんだ。柊平お兄ちゃん、結婚するんだ?」

そう聞いてくる由起に、美有希が頷(うなず)く。


「でも不思議なんだよね。心は全然痛まないの。むしろ、“おめでとう!”って思っちゃって──」

「そっか…」

“じゃあ…美有希は多分、もう柊平お兄ちゃんには恋心は抱いてはいないんだろうな~”

ふと、由起は思った。


“じゃあ…美有希、今好きな人って…いるのかな?”

「えっ!?『好きな人』?」

「あっ!私…声に出でた!?」

「うん。『今、好きな人って…いるの?』って言ってた」

恥ずかしくなり、由起は顔を真っ赤にした。


「ごめん!忘れて?」

「──ううん。聞いて欲しいの…」

意を決して、美有希は口を開いた。


「私ね。高校入試の面接の時に冴島先生に会っているの。記憶を無くしていた時に思い出したんだ」

「そっか…」

「しかも、わたしが記憶を無くしていた時にとても優しくしてくれて。それから気になっちゃって…」

「──」

「それから、『柊平お兄ちゃんが帰って来た』・『結婚する』って聞いても心が全然痛まなかった。でももし“冴島先生が結婚したら?”って考えたら、すごく心が痛んで──」

美有希の表情が曇った。


「だから私…“冴島先生に恋してるんだな~”って思っちゃって…」

「そっか…」

「だから由起…ごめんね──」

「──!!!美有希!?いつから気付いてたの?」

由起は驚いて美有希に尋ねた。


「中2の時にキスされて、最近保健室でまたされてから確信に変わったの」

「あの時、起きてたの!?」

美有希が頷(うなず)く。


“冴島先生にキスされたのは、気付いてたのかな?でも…さすがに、それは聞けないな──”

そう思う由起だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る