第26話初めて…

「今年も、冴島先生と西山先生のコンビでよろしいですよね?」

「はい!」

「満場一致のようですね!」

文化祭の職員劇の話だ。

「今年は『赤ずきん』のパロディーですか?松本先生」

「はい!でも…冴島先生と西山先生、『どちらが赤ずきんとオオカミをやるか?』で、台本が変わるんですよね~」

そう言って松本は、2冊の台本を見せる。

「さすが先生!もう2通り用意されてるんですか!?」

「松本先生。見せて~」

弘次が、台本を奪い取る。


「どっちも面白そうだけど…。今年は、冴島先生が赤ずきんをしてみますか?」

「えっ!?僕が赤ずきんをですか?」

「万ちゃんなら大丈夫!」

“でも…。『女役』って初めてだな──”

万里自身タイで芸能活動をしていた際結構ドラマにも出演してはいたが、さすがに女役は一度も無かった。


「はい。じゃあ…やらせていただきます」

「はい!決まり~!!」

“また、台本を覚えなきゃな──”



翌日の土曜日。

万里は、また美有希の家に居た。

「河村さん。僕が毎日のように来て、迷惑じゃあないですか?」

「だ…大丈夫です。由起や加奈芽は、毎日来てますから…」

「そうですか?じゃあ良かった…」


「冴島先生。私…7月くらいまでの事を思い出しました。期末試験で学年トップを取って、『よく頑張ったね』って誉められた事とか」

「そこまで思い出せたんですね!すごいです!!」

「でも…この後、家族が──」

「そうですね…。でも、それを思い出した時には、僕が支えますから。『悩み事があったら、何でも言ってください』って言ったでしょう?」

「はい。ありがとうございます…」

「じゃあ僕は、今日はこれで」

そう言って、万里は河村家を後にした。


「こんな気持ち、初めて──」

まだ美有希は、3者面談の事は思い出してはいなかった。


美有希は、万里に恋心を抱きつつあった──。

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