第25話望んだ将来、望まなかった現実。
美有希は、由起や加奈芽とともに自分の事を心配してくれている人物が、一般入学者選抜で出会った万里という事に気付いてしまった。
急に高まる恋心──。
“担任の先生だから心配してくれているのかな?”
“担任だから、当たり前なのかな…?”
夕食を摂りながら、そんな考えがかけめぐる。
“でも…。男性の事はまだ信じられないな。柊平お兄ちゃんの事もあるし──”
「必ず迎えに来る」──そう言って9年以上迎えに来てくれない柊平。
大学はとっくに卒業しているはずで、生きていれば27歳になっているはずだ。
「柊平お兄ちゃん。どこに居るんだろう?」
翌日。
「先生。河村さん、また来ないんですか?」
「ええ。今日も欠席です」
記憶を失くしてから、ずっと美有希は欠席していた。
「冴島先生!河村さんだけえこひいきしてませんか?毎日のように家に行ってるらしいし…」
「松名(まつな)、それは…」
「香(かおり)!美有希は家族を一気に失くしてショックを受けてんの!!先生が気にかけるのも仕方ないでしょ!?」
「由起…」
松名 香は、美有希に嫉妬(しっと)していた。
その日の昼。
万里は弘次に呼び出されていた。
「万里。『河村をひいきしすぎだ』って、うちのクラスの女子からもクレームが出てるぞ」
「はい。さっき松名さんからも言われました。結局、渡辺さんがかばってくれたんですが…」
「…ヤバいんじゃないのか?」
「でも放(ほ)っとけなくて…」
「だよなつ~。今回は特殊(とくしゅ)だもんな~。オレでも万里の立場なら、心配で毎日のように家に行くかもな~」
「…」
その日の夕方。万里は美有希の家に居た。
“やっぱりおかしい…”
美有希が、自分となかなか目を合わせないのだ。
「河村さん?」
不意打ちで顔を覗(のぞ)き込むと、顔を背(そむ)ける。
「様子がおかしいですね…。疲れていませんか?」
「いえ!大丈夫です!!」
「そうですか…。悩み事とかがあったら、何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます…」
美有希が、万里に背を向けて言う。
「もしかして…。河村さん、何か思い出したんですか?」
「少しだけ…。3月末辺りまでは思い出しました。“晴海高校、受かった~!”って、由起や加奈芽と喜び合ったのを思い出しました」
万里の方を向き、美有希が言う。
「そうですか!良かったですね!!」
つい興奮してしまい、万里は美有希の手を握(にぎ)ってしまった。
「あっ!!」
「ご…ごめんなさい!!つい──」
“じゃあ、あの時の事も思い出したのかな?”
「とにかく!少しずつ思い出してきてるようで、良かったです。──また来ます。さようなら」
「さようなら」
『教師と生徒』
“恋しちゃダメなのに…”
「思い出さない方が良かったのかな?」
美有希はbirdの曲を聞きながら、布団で眠りについた──。
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